泣きたい感情を押し殺すように唇を噛み締めて、ゆっくりと首を縦に振った。が、いざ話そうと口を開くがのどの奥に言葉が張り付いて出てこない。きっとこれは緊張しているから。すーはーと呼吸を整えて、「実は──」今朝あった出来事を順を追って説明する。
「……ていうことがあったの……」
説明を終えると、また今朝の記憶が頭の中に蘇ってきて、泣きたい感情が込み上げてくる。
「うそ、倉田先輩に彼女……?」
香穂も目を白黒させて固まった。
香穂とは中学からの親友で、私がずっと翔ちゃんに片想いをしていることを打ち明けていた。そして、翔ちゃんと毎朝一緒に学校へ来ることや私のことを一番に考えてくれていることなど、それはもう毎日のようにしゃべり尽くしていた。
だから当然、香穂が驚くのも無理はない。
「ほんとにそう言ったの?」
狐につままれたような顔でぽかんと固まる。
「……うん、言ってた」
〝彼女ができた〟
どうか、それが嘘であってほしいと私も何度も願った。
だけど、翔ちゃんが訂正することはなかった。
「……そんな。だって私はてっきり美菜のことが……」
そこまで言いかけると、ハッとして口を結んだ。
香穂が言いたいことは容易に理解できた。
〝私はてっきり美菜のことが好きなのかと〟だろう。
私だって、ほんの少しくらいそう思ったことはあった。
小学生の低学年の頃、男の子にいじめられたことがあってそのとき真っ先に私のことを助けてくれたのは翔ちゃんだった。それ以外にも、何か予定があっても私が『一緒に帰ろう』と言うと、予定をキャンセルしてまで私に合わせてくれたし、嬉しいことがあったと話せばよかったなって頭を撫でてくれた。
中学生のとき私が上級生の女の先輩に『倉田くんに馴れ馴れしすぎる』って言われたときだって、翔ちゃんが助けてくれた。『美菜は俺にとって大事な子だから』って言ってくれたし。