「美菜、おかえり」
「山下さん、頑張ったね」

 教室で私を出迎えてくれのは、香穂と松村くんだった。

 二人の顔を見た瞬間、堪えていたものが一気に溢れてくるのが分かった。

「香穂ぉ……松村くん……っ!」

 その場にペタリとへたりこんで、泣きじゃくる。

 そんな私に駆け寄った二人。香穂は、「頑張ったね、えらかったね」私を抱きしめて慰めてくれる。松村くんは「つらかったよね。でも、頑張ったな」頭を撫でてくれる。
 二人の優しさが身に染みて、涙腺は崩壊する。

「……私、頑張ったかなぁ」

 鼻をすすりながら、問いかける。

「当たり前じゃん。美菜、すごく頑張ったよ。私、美菜のこと見直しちゃったよ」
「山下さん、ほんとに頑張った。つらいのにちゃんと向き合ってえらかったね」

 甘くて優しい言葉がたくさん溢れる。それを聞いて私はまた泣きたくなる。

 翔ちゃんに今さら伝えたって、結果は見えている。伝えたってきっと困らせるだけだ。
 だから私は、自分の中だけでそれを解決することにした。

 十年分の〝好き〟に別れを告げたのだ。

「ほんとはね、すごく嫌だったんだよ。今だってこんなに翔ちゃんのこと、大好き…なのに……」
「うん、うん」
「……でも、好きな人には幸せになって、もらいたいから…だから私……」

 翔ちゃんのこと諦めた。

 好きな人の幸せを願って身を引いた。

「もういいよ、美菜。話さなくても私たちちゃんと分かってるよ。つらかったね、苦しかったね」

 香穂の優しい声は、私の涙を誘った。

「…でも、その選択がきっとこれから美菜のためになるから」
「……ほんとに?」

 この選択は間違いじゃなかった。

 そう思える日が訪れるのだろうか。