それからどうやって学校に向かったのか分からないほどに私の心は、ひどく傷ついてナイフで胸を貫かれたような苦しさが全身を襲っていた。
「ちょっと美菜! どうしたの? 朝から元気ないよ……?」
私の元へ駆け寄って来たのは、中学からの親友の香穂こと山野香穂だった。
「……どうしよう……」
今さっきあったかのように、はっきりと記憶に浮かび上がる。それに同調するように私の感情も押し寄せる波のように荒波を立ててゆく。
「ねぇ……香穂、どうしよう……! 私、これからどうすれば……っ!」
抑えられない感情が表に顔を出す。心の中は、翔ちゃんのことでいっぱいで他のことを考える余裕なんかない。
だからクラスメイトが私のことを心配そうに見ていたことなんて気づかずに、声をあげる。
「ちょ、美菜……!」
慌てた彼女は、私の腕を引っ張って教室を出る。
そうしてやって来たのは、中庭だった。
「ねぇ美菜、一体何があったの?」
ベンチにへたり込むように腰をかけた私に、恐る恐る声をかけた香穂。
「いつもは翔ちゃんが翔ちゃんがって嬉しそうに話してたのに……今日は一体、どうしちゃったの?」
的を得た矢のように的確に急所を突いてきた。
〝翔ちゃんがって嬉しそうに〟その言葉で急速に手繰り寄せられる記憶に、また頭を支配されそうになり身をかがめた。
「……美菜顔、真っ青だよ。大丈夫?」
そうっと肩に落ちてきた温もりに、私はまた込み上げそうになり「ふぅ…っ」口元を手で覆った。
「美菜、何があったのか分からないけど……一人で抱え込まないでさ、私に打ち明けてみない?」
子どもをなだめるような優しい音色のような声に顔を上げると、文章に余白を設けるように少しだけ間を置いたあと。
「私、美菜の力になってあげたいよ」
静かな水面に風が波紋を描くように、香穂の顔に微かな笑みに似たものが広がった。