「あ、えっとねギャップっていうのかな。しっかりしてて完璧に見えて抜けてるところがたまにあって、それがすごく可愛いくて…」
幸せそうに表情を緩ませながら次から次へと落ちてくる言葉を聞いてひどくうなされそうになる。
ギャップ、可愛い。翔ちゃんに不似合いな言葉だった。私は、そんな翔ちゃん知らない。十年以上一緒に過ごしてきたけれど、私が見ていた翔ちゃんは全部かっこよくて完璧で、ミスひとつしなかった。そんな翔ちゃんをずっと好きだと思って追いかけてきたけれど、私に見せない顔があったの……?
「この人のこと好きかもって思ったらもうあっという間に気持ちは膨らんでいって……気がつけば好きになってたの……」
顔を赤面させたあと、両手で頬を覆うようにして私から顔を逸らした。
そのときの表情は、なぜかすごく可愛く見えた。
数日前までは、地味で目立たなそうで私の方が勝っている、なんて勝手に思い込んだけど。
「……翔ちゃんのこと、そんなに好きなんだ」
思わず口からぽつりとこぼれ落ちる。
数日前、香穂に言われた言葉を思い出す。
〝彼女を選んだのは、倉田先輩なんだよ?〟
……たしかに、その通りだ。翔ちゃんが選んだ人なら間違いないんだ。
私は、一体どれだけ自分を正当化していたんだろう。自分を高く見ていたんだろう。
私なんかよりも彼女の方が心が綺麗で純粋で、翔ちゃんの隣にお似合いかもしれない。
「……ねぇ、もしかして翔平くんの大切な子かな?」
打ちひしがれていたそのとき、脈絡もなく落とされた言葉に、え、と声を漏らした私は顔を上げた。
「大切……?」
一体、何のことだろう。
雷に打たれたような衝撃が走り、思考回路は停止する。
そんな私を見てクスッと笑ったあと「あのね」とゆっくりと口を開いた。