それから移動してやってきたのは、三階の非常階段だった。が、緊張しているせいで金魚のように口をパクパクしているだけだ。自分が引き止めたのに黙るってどういうこと……

「えーっと、私に用事があるんだよね……?」

 引き止められた理由も分からずに困惑したように尋ねてくる。

「は、はい…」

 ここまでくれば腹を括るしかない。ほんとに翔ちゃんの彼女なのかどうかだけ確認をして、もう帰ろう…! オブラートに包みながら……と、すーはーと呼吸を整えて。

「翔ちゃんの彼女なんですか?!」

 私の口からこぼれ落ちた言葉は、ドスレートのものだった。

「え…え?」

 狐につままれたようにきょとんとした表情を浮かべて固まった。
 しばらくして、質問を理解した明日香さんは「え、えっと、その…」口を金魚のようにパクパクとして。

「……翔平くん…の彼女です」

 顔はりんごのように真っ赤に染まり出し、目線をわずかに下げる。

 今まで見て見ぬフリをしていた現実を突きつけられる。
 その瞬間、私の胸にグサリと棘が刺さる。

 だけど、それと同時に冷静なもう一人の自分がいることに気がついた。

「翔ちゃんのどこを好きになったんですか?」

 気がつけば、私はそんなことを尋ねていた。

「そ、それはもう、いっぱいというか……」そう前置きをしてから。

「翔平くんの優しい声とか目立たない私にも分け隔てなく接してくれるところとか、かっこよくて、いつもキラキラしてるし、先生たちからの信頼も厚くて私もいつも助けられてばかりで……」

 軽快なテンポでリズムよく溢れてくる言葉はどれも翔ちゃんを褒めるものばかり。
 今まで私が今まで翔ちゃんに対して思っていることばかりだ。翔ちゃんが誰にでも優しいのなんて今に始まったことじゃない。そんなこととっくの昔に知ってるもん……

「──非の打ちどころがないくらい完璧なのに、たまにすごく抜けてるところがあるの」

 突飛なことを告げられて、え、と困惑する。

 ……翔ちゃんが抜けてるところがある?

「どういう、ことですか……」

 衝撃的な言葉に頭の中が白く抜け落ちる。