「そしたら、OKもらえてさ……今までは全然、そんな素振りさえなかったから自分自身まだ驚いてて、夢でも見てるんじゃないかって思うほどで」
翔ちゃんがしゃべっているはずなのに、口だけが器用に動いていて言葉は何も聞こえてこなかった。
「まさかと思ったけど両想いで、それで──」
心には、刺された棘の抜けないような痛みが残った。
視界がぼんやりしかけたとき「だからさ」不意をついたように少し大きく響いた声に、ぱちっと頭の中の風船が弾けた気がした。
「美菜と一緒に学校行くことできなくなったんだ」
頭を殴られたようなショックが全身を貫いた。
「……うそ…だよね?」
ねえ、翔ちゃん、冗談だよって言って笑ってよ。今までみたいに私のこと幼馴染みで大切なやつだからって……美菜が一番だよって、前みたいに言ってよ……
「ごめん、美菜」
翔ちゃんの口から溢れた言葉は、なんの優しさも込められていないような静けさだった。
さみしさが夕立雲のように広がって、泣きたいほどの気持ちに侵される。
「……やだ」
スカートの裾をぎゅっと握りしめる。
「……やだよ」
──今までは私が翔ちゃんの一番近くにいたのに。
「ごめんな、美菜」
翔ちゃんは、それしか言ってくれなかった。
そのときの翔ちゃんの横顔は、太陽が雲間に入ったように顔を曇らせていた。