物置の影に隠れている私には、誰も気づかない。二人とも二人の世界に夢中だ。

「うん。俺も、明日香と行ってみたいし」

 少しだけ顔を覗かせれば、表情を緩ませて笑っていた。
 まるでショートケーキを目の前にした女子のように喜んで見えた。

 もう何年も忘れていた絶望という感情が両手を広げて私へと近づいてくる。

「やったぁ、嬉しい」

 翔ちゃんの言葉に分かりやすく声を弾ませる彼女。

 初めて顔を見たけれど、目立つような華やかさはない。どちらかといえば地味という言葉がしっくりくるくらい顔だってパッとしないし、翔ちゃんの隣に不釣り合いなくらいだ。

「……どうして私じゃないの……」

 やり場のない苛立ちで、頭の芯がチリチリと音を立てる。

「じゃあ放課後、迎えに行くから」
「うん、分かった」

 その言葉で会話は締め括られる。

 二人とも幸せそうに微笑んでいた。

 物置の影から姿を現し去って行った二人の背中を見送った。

「……翔ちゃんの隣は私の居場所なのに」

 壁にかけてあった鏡の中に映っていた自分の表情は、吊り上がった両目が、狐のお面のような顔に見えた。