授業が終わってHRが始まる前、私はシャープペンを返そうと三階へ上がった。
すぐに翔ちゃんを見つけて声をかけようと思った矢先。
「──あっ、翔平くん」
不意に翔ちゃんを呼ぶ声が聞こえる。目を凝らしてよく見れば、翔ちゃんの元へ駆け寄った女の子がいた。
……誰だろう。
「もしかしてあれが彼女……?」
髪は真っ黒で背中まで伸びているそれを一つ束ねていた。風があたるたびにふわりと攫われる。遠くても分かる。彼女の髪は、艶々していた。
だけど、制服の着こなし的には私の方が上だ。私はスカートを膝より少し上にしているけど、彼女はちょうど膝あたりといったところ。
おまけに翔ちゃんのこと〝翔平くん〟って呼んでるんだ。
ふーん。べつに気になんてしないもん。……でもなんか、おもしろくない。
目を凝らして彼女を凝視していると、突然振り向いてこちらを見る。
「わっ、やばい…!」
だけど、目は合っている気がしない。
……バ、バレてないよね……?
そりゃそうだ。これだけ離れている廊下で、見えるとすれば視力が二.〇ないと不可能だろう。
ホッと安堵した矢先、翔ちゃんと二人でこちらへ歩いて来る。
「──こっち来る…!」
慌てて物置の影に隠れると、段々と近づいて来る足音と共に二人の声もはっきりと濃く色づいてくる。
「明日香、今日放課後予定ある?」
──ドクンっ
翔ちゃん、彼女のこと〝明日香〟って呼び捨てなんだ……。
「ううん、今日は委員会ないから大丈夫だよ」
「じゃあこの前言ってたカフェ行ってみない?」
「えっ、ほんとに? いいの…?!」