「……ちゃんと最後までやったもん」

 子どものように拗ねた私は、唇を尖らせる。

「そうだったな。美菜、すごく頑張ってたもんな」

 穏やかで優しい表情を浮かべた。

 そうやって褒めてもらいたくて、私は諦めそうになっても最後までやり直した。翔ちゃんが応援してくれるなら、私はいくらだって無敵になれるのだ。

 久しぶりに翔ちゃんの笑顔を見たけれど、やっぱりかっこよくてずるい……。

「……ほんと翔ちゃんてば卑怯だ」

 顔を下げて、ぽつりと小さな声で呟いた。

 きっと私の顔、赤くなってる。

「──とまぁ懐かしい記憶は置いといて、美菜、シャーペン忘れたんだったよね」

 不意に告げられた言葉によって現実へと引き戻された私は、数分前にシャープペンを忘れたと嘘をついたことが頭から抜け落ちて、え、とぽかんとする。

「え、って。忘れたから借りに来たんじゃないのか?」

 苦い笑みを浮かべて笑われる。

 ……シャープペンを借りに……ああっ、そうだ! 私、さっき言い訳したんだった!

「そそそ、そうなの! シャープペン忘れちゃって……」

 慌てて言葉を取り繕うと、「まさか忘れてたのか」呆れたように肩を落とした。嘘がバレていないかヒヤヒヤして胸がどきりと早鐘を打つ。

「持って来るからここで待ってて」
「う、うん……」

 翔ちゃんが教室に戻ったことによって、私は一人ぽつんと廊下に取り残される。
 たった一階上がっただけで、ここはキラキラして見えた。目の前を通り過ぎる生徒はみんな大人っぽく見える。まるで別世界にいるようで心がざわざわして少し居心地が悪かった。