「なーに話してんの!」
不意に私たちの元へやって来たのはクラスメイトの松村奏多くん。
ふわふわした黒髪に切れ長の瞳が色気を漂わせる。優しくて頼り甲斐もあるからと男女共に人気で、モテモテだ。
「美菜の恋ばな!」
香穂があっさりと教えてしまうから、松村くんは「へぇ、恋かぁ」言いながら私の隣の席へと腰を下ろす。
普通男子なら女子だけの恋ばなに割って入ってくることはないけど、松村くんはたまに恋の相談も受けているらしい。だから、女子二人の中に男一人でいても全然違和感はなかった。
「山下さんは、今好きな人いるの?」
「……うん、いるよ」
文章に余白を設けるように少しだけ間を置いたあと、小さな声で答える。
「なのにそんなに浮かない顔してるね」
松村くんの表情は、太陽が雲間に入ったように表情が曇った。
「何かあったの?」
まるで私の心に寄り添うように、優しい言葉をかけてくれる。
「えっと、それは……」
のどの奥に言葉が張り付いて出てこない。
「美菜の好きな人に彼女ができたんだって」
何も言えない私の代わりに香穂が、淡々と告げる。まるでそれは、夕立と一緒にかみなりが落ちるようにはっきりと。
「ちょっと香穂……」
「だって美菜待ってたらラチあかないし。こういうときは恋愛マスターの松村くんに相談する方がいいって!」
機関銃のような早口でしゃべり続ける香穂。
「いや俺、べつに恋愛マスターとかじゃないから」
「だけど松村くんたくさんの人から相談受けてるでしょ。私知ってるよ」
「まぁ、そうだけどそれとこれは話が違うっていうか……」
当事者である私がなぜか蚊帳の外。
「それで山下さんの話の続きは?」
雪崩のようなおしゃべりが、ようやく途切れて、私へと視線を向ける松村くん。