大学生は大人とか、高校生まで子どもとか、そんなの関係はなくて。きっとこの世界に住む人間なら、みんな何かを抱えている。たとえ悩みは大小だとしても、本人にとってみればそれは大きな悩みになる。栞里も、国崎や亮介だってみんな……
「幹太くん、最後に一つだけいいかな?」
少しだけ深妙な面持ちで、俺の目の前へ歩いて来る。
ざざーん。波が押し寄せると、小さな木々や貝殻を巻き込んで海へと戻る。時折吹く潮風が少し寒さを含んでいるようで、切なくなる。
もうすぐで季節は変わる。夏から秋へと変化する。
「……うん」
胸はどきりと音を立てる。
「幹太くんは、ゆっくり成長して」
「……え?」
「お母さんのこともすごく不安だと思う。心配だと思う。でもね、それを自分のせいだって思わないで過ごしてほしい」
想像していない方角から矢が飛んできて「……えっと、あの…」言葉に詰まる。
「お母さん、幹太くんのこと心配してた。自分のこと責めてるんじゃないかって」
「それは……」
「もちろんね、幹太くんの成長も気になるんだと思う。だからお母さんは、私に会いたいって言ったんじゃないかなぁ。私に普段の幹太くんを聞きたかったのかもね」
母さんが栞里に会いたいと言ったのは、栞里が俺の〝特別な人〟だと母さんに教えてしまったからだ。
「だからね、幹太くん」
一度言葉を切って、口元に弧を描いたあと。
「この世界に不安になっても焦らなくていいの。ゆっくりでいいの。幹太くんはこれから少しずつ少しずつ成長していけばいい。そしてもっと自分のことを大切にしてあげて。幹太くんのお母さんも、きっと幹太くんが幸せになることを願ってるよ」
穏やかな表情を浮かべて俺を見据えた。
そのときの言葉が胸の深層に深く突き刺さり、のどの奥が苦しくなった。
俺は何も言うことができなくて、ただただ、海岸で立ち尽くしているだけだった──。