いつも陽気で明るい栞里がそんなことを考えていたなんて知らなかった。初めて知った心の部分。
俺はそれに触れていいのか分からなかった。だけど、栞里は俺を救ってくれた。だったら──…
「……うまくいってなかったの?」
俺の言葉を聞いて栞里は、一瞬だけ目を驚かせたあと「そうだよ」柔らかく口元を緩めた。
「ぜーんぜん自分の思い通りになんてならなかったの。ただの一度も」
「一度も……?」
「自分が思い描く世界ってあるでしょ? こんなふうに過ごしたいって憧れみたいなものが。でも、私にはそれができなかったんだぁ」
頭の奥にしまっていた記憶が次々と溢れてきたのか、驚いたり笑ったり栞里の感情は目まぐるしく変化する。
「人ってさ、周りがよく見えたりするでしょ。あの人は羨ましいなぁ、いいなぁって。何度も羨んだし妬んだこともあった」
「……うん」
表面化していなかっただけで栞里はずっとこんなふうに悩んでいたのかもしれない。
「でもね、最後はやっぱり〝ああ私には変わることは無理なんだなぁ〟って諦めちゃうの。どうせみんなみたいに頑張ることできないんだって思ったの」
少し遠くを見るような目をして思い出す。
俺と離れているから表情がよく見えない。
「諦めてどうしたの……?」
俺の言葉にピタリと立ち止まる。くるりと振り向いた、その瞬間胸がどきりと音を立てる。
「自分に期待しなくなったの」
──栞里は泣いてはいなかった。
「自分は変われないんだって納得したら、もうどうでもよくなっちゃったんだ」
雲間に入ったように表情が少し曇る。
俺が知っている栞里とは全く別人のようだった。それとも俺はまだ栞里の全てを見ていないのかもしれない。
「栞里……」
俺が頼りなかったから話そうとしなかった?
自分の無力さに情けなくなる。