「幹太くんとはバス停で出会ったんです。私がバスを待っているとき、すごい風が吹いて私の帽子が飛んだんです。それを偶然通りかかった幹太くんが拾ってくれて」

 俺の気持ちなどお構いなしに、ひまわりのような笑顔を浮かべながら話し始める。

「この町の子は大抵自転車を使うことが多くて、あとはみんな電車通学なんです。それに私がバスを待っているとき、あの道をあまり高校生通らないんですよ。部活の時間と被ってるから」

 たしかに栞里がバスを待っているあの時間は、ちょうど部活動の時間と重なっている。
だから、俺以外の生徒はほとんどが学校だ。

「だから幹太くんが通ったとき、私すごくびっくりしたんです。少しでも時間がズレたら絶対に出会うことなかったから……そう思うと、この出会いはすごく奇跡みたいなんだなぁって思って。それと同時にこんなに優しい子に出会えて私ラッキーだなぁって思いました」

 ぱあっと花が音を立てて咲いたように、記憶をたどるようにしてぽつりぽつりと答え始める。

「あら、そうだったのねえ。幹太ったらバス停で会ったとしか言ってくれなかったから」
「……同じ意味になるだろっ」
「それはそうだけど、お母さんはもっと具体的に知りたかったわ」

 なかなか終わらない話にそわそわして落ち着かなくて居心地が悪くなる。母さんが余計なこと言わないといいけど……

「栞里ちゃんは大学生なんですってね」
「あ、はい。ここより少し先にある大学に通ってます」
「あらそうなの。それは知らなかったわ」

 目を白黒させたあと、口元を緩める母さん。

 どうやら俺たちは、まだこの町のことを理解しているわけではなかった。
 
「この子、栞里ちゃんから見てどうかしら?」

 突飛なことを尋ねる母さんは、彼女のことをすでに〝栞里ちゃん〟と呼んでいる。

「私の方が年上のはずなのに幹太くんの方がしっかりしてるような気がしちゃって、いつも助けられてますよ」

 栞里がそう言うと「あらそうなの?」目を白黒させたあと、俺へと視線を移す。恥ずかしくなってたまらず顔を逸らす。

「ずっと病院にいると知りたくても知ることができなくてね、この子の普段のこと分からなくて」

 少しか細い声が落ちるが、「幹太くんなら大丈夫ですよ」力強く断言されるような言葉に母さんは、え、と困惑する。