──プップー
クラクションのようなものが聞こえて顔をあげると、バスがこっちへ向かっていた。
どうやら二十五分が経ってしまったらしい。
俺たちの前で止まったバスがぷしゅーと音をたててドアが開く。
「残念。もうバス来ちゃった」
ベンチから立ち上がると、ふわりと流れてきた風にワンピースが揺れて髪の毛も攫う。
降りる人はいない代わりに、栞里がバスに乗り込んだ。
「──あのっ、また会える?!」
これが最後だなんてどうしても嫌だった。
母さんのためにこの町へ来ただけの俺は、他人を寄せ付けるつもりはなかったし仲良くなるつもりもなかった。それなのに気がつけば俺の口からはそんな言葉が溢れていた。
さっきいくらでも時間はあったのに、連絡先一つも聞けなかった俺の意気地なし。話した内容なんか緊張のせいであまり覚えてはいない気すらする。
「会えるよ」
ドアの前で立ち止まり、振り向いた彼女。
ただの口約束は、あまり効力がないことを高校生の俺は知っていた。
「……ほんと?」
「うん、ほんとだよ」
そう言ってにこりと笑った栞里。
俺は、その言葉を信じてみたいと思った。
「きみ、乗らないのかい?」
不意にバスの運転手が俺に声をかける。
どうやら俺まで乗ると勘違いさせたらしい。すみません、と一言謝ると、ぷしゅーと音を立てながらドアが閉まった。
栞里は、後部座席の窓側に座った。窓は開いたままになっていた。どうやらここに来るまでの途中誰かがそこに乗っていたのだろう。
「幹太くん、またね」
口元に弧を描きながら俺に手を振る。
「うん、また!」
つられるように俺も自然と手を振り返す。
バスは俺の目の前を発射すると排気ガスを出しながら、どこまでもどこまでも永遠に続く一本道を走って行った。
たった今分かれたばかりなのに、もう会いたい。
全力疾走しているときみたいに胸が熱くなる。
彼女のことを思うと胸がいっぱいになるくらい、どうやら俺は栞里に特別な感情を抱いてしまったみたいだった──。