「亮介のことはもうどうでもいいんだけど──」そう前置きをした国崎。
〝どうでもいい〟に反応した亮介は「な、なんだと……」かなりショックなようだ。さすがの俺も彼を憐れんで苦い笑みを浮かべる。
そんなことなどつゆ知らず。
「私、今年で一番よく撮れたかも!」
そう言って花が咲いたように笑う国崎。
「この写真を現像したときもね、それ見たじいちゃんが『よく撮れてるじゃないか』って褒めてくれたの! あんまり褒めてくれることがないあのじいちゃんがだよ……?! 私、それが嬉しくってさぁ……」
浮き浮きして、顔の皮膚までもしっとりと輝きだす。
よほど、じいさんに褒めてもらえたのが嬉しいのだろう。写真屋を経営しているならプロだ。それなら孫にも厳しいのも納得できる。が、じいさんはどれだけ厳しいのか少しだけ気になった。
「あのじいちゃんが? カメラのことになるとすっげーうるさくて頑固じいさんが……?」
国崎の言葉に意気消沈だった亮介は、いつのまにか復活する。
「うん、そうなの!」
「そりゃあ嬉しいよなぁ! よかったじゃん、茜音!」
「もうすっごく嬉しい!」
嬉しそうに顔を緩ませる国崎。その表情は今にも溶けてしまいそうなほどだ。
さっきまで言い合っていたピリピリムードが一気に穏やかになる。
俺には分からない二人だけの時間が、彼らにはある。だから、小さな仕草や反応で相手がどう思っているのか手にとるように理解できるのだろう。
しかりそれは逆もあり、支え合ってきたのだろう。
「──あっ、そうそう。高槻くん、その写真あげる!」
突然国崎がそんなことを言うから困惑した俺は、え、と声が漏れる。
「だってそれ、高槻くんにはじめからあげるつもりで現像してきたから。だからもらってほしいな!」
そう言ったあと、にこりと微笑んだ。
初めから俺にあげるつもりで国崎はわざわざ現像してくれたのか。
「……あっ、でも素人の私の写真でよければ…だけどね」
黙り込む俺を見て俺が困ってると誤解したのか、よそよそしい言葉を付け足した。
亮介が俺の肩に腕を組んで歯を見せて笑っている。その隣の俺も笑ってる。自然体で。
素人とかプロとか関係ない。楽しさが写真から滲み出ていた。
「……ありがとう」
思いのほか俺の口から漏れた言葉は小さかった。
「受け取ってもらえてよかった」
国崎は胸を撫で下ろすように微笑んだ。
この町へ来て、初めて誰かと写真を撮った。
今までは彼らを毛嫌いして遠ざけていたけれど、今なら確信を持って言える。
亮介と国崎は、間違いなく俺の友人だ。