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ある日の休み時間。
「亮介、高槻くん!」
国崎が手に何かを持ちながらパタパタと駆け寄って来る。
「これ見て! これ!」
嬉しそうに笑いながら俺らに手向ける。
俺と亮介は顔を見合わせて、クエスチョンマークを頭に浮かべながらそれを亮介が静かに受け取った。
「おお、これ。現像したんだ?」
隣から覗き込むと、この前海で撮った俺たち二人が映っていた。
「うん! じいちゃんの仕事部屋を借りてちゃちゃっと現像したの! どう? すごくよく撮れてるでしょ!」
写真の中の俺たちは、とてもよく笑っていた。
「高槻くんもすっごくいい笑顔だよね!」
俺も、愛想笑いではなかった。
笑顔を褒められて、少し照れくさくなった俺は「……べつに」顔を逸らす。
国崎がこの前使ったカメラは、フィルムカメラだった。それで撮ると、こんなに味が出るものなのか。陽の光とか背景の海とか綺麗に写っているのに真ん中に映る俺たちは自然体だ。
「そんな照れるなって! 笑うことはいいんだぞ。なんならもっと笑えよ!」
まくし立てられるように告げられる。
「……うるせ」
無意識だった。まさかこんなに顔が緩んでいるなんて自分じゃないみたいだ。
「私もね、自分で撮ったわりにはすごくいい出来じゃないかなぁって思うんだ!」
「自己評価高すぎるだろ」
「いいじゃんべつに! 自分で自分を褒めてあげることも大事なのっ」
また始まった、亮介と国崎の言い合い。この光景を見ても何とも思わなくなったのは俺がこの空気に慣れつつあるからだ。
適応力があるといえば聞こえはいいけれど、こいつらのアホに巻き込まれるのは勘弁だ。
「甘やかしすぎてもダメだろ。たまには自分に厳しくしてやらねーと!」
「飴と鞭の使い方も知らないくせに厳しくしてばかりでどうするの! そんなんだから亮介いまだにおじいちゃんに怒られるんだよ!」
「それとこれは関係ないだろ!」
二人の攻防はしばらく目の前で繰り広げられる。
蚊帳の外になった俺は、なんとなくつまらなく思う。