「ほんとに大丈夫だから」
そう返事をすると、そっか、と安心したように笑って海岸へと上がった国崎。
ふわりと風が吹き、国崎の髪が攫われる。黒髪でショートカットなため首が大胆に見えていた。
「なーに茜音のことばっか見てんの!」
ずしっと肩に重みが加わる。ちら、と視線だけを隣へ向けると、亮介が恨めしそうに妬ましそうに俺にへばりつく。
「見てねーよ」
「いーや、今のは目で追ってた!」
「国崎のこと大好きで仕方ないおまえと同じにするな」
「ちょ…幹太…っ!」
俺の言葉が効いたのか途端に慌てだして赤面する亮介。ほんと分かりやすい。今まで国崎にバレなかったのが奇跡ともいえる。
「ねえ! こっち向いてー!」
不意に国崎の声が響く。
彼女へと顔を向けると、カメラを構えてこちらを見ていた。
どうやら撮るつもりらしい。すでにレンズの奥を覗き込んでいた。
「うおー! 写真、いいな!」
今の今まで赤面していたやつと同一人物だと思えないほどに、肩を組まれた腕の力は強かっあ。
「ちょ、離せよ」
「いーじゃんいーじゃん」
面倒くさいことになってチッと舌打ちをするが亮介は「いひひっ」と歯を見せて笑った。
今までならカメラを向けられても笑うことだってなかった。いや、愛想笑いだけは欠かさなかったが、心の底からの笑顔は一度もない。
「ほら、二人ともこっち向いてー!」
国崎の声が聞こえて、亮介がますます力を強めるから逃げることもできなくなった俺。
「はいじゃーいくよ。いちたすいちは──?」
国崎が声を張り上げた。それに「にー!」亮介がバカみたいに答える。それにおかしくなって俺はつられて笑った。
──パシャッ
フィルムカメラが一瞬光った。
「ちゃんと撮れたかー?」
亮介が国崎へと駆け寄る。水しぶきをあげながら、海岸へ上がった。
水面が波打って、俺の足にかすかな振動を送る。海の中は透けていて、それほどまでに海水は綺麗だ。さんさんと照りつける太陽の光が水面に反射してキラキラと光る。磨き上げたように青い海がどこまでも広がっていた。
水平線の向こうは果てしなく、空と同化するほどに同じ色が描かれていて境界線は見えなかった。
「おーい、幹太ぁ!」
亮介の声に反応して顔を向ける。
「ばっちりいい顔撮れてるぞー!」
海岸で大きな丸を両手で作る亮介。その傍らで、カメラを持ちながらピースサインを送る国崎。
ああ、この感じ。昔、どこかで感じたものと同じだ。
意識の深層から懐かしい光景が浮かび上がる。
野球に明け暮れていたあの頃の俺自身だ。チームメイトと放課後泥だらけになって汗水垂らして頑張ったあの頃の記憶。
この思いに名前をつけるとしたら、間違いなく〝青春〟だろう──。