「それは亮介がいけないんじゃん!」
「俺が壊したわけじゃねーって! ララがカメラ置いてた横に飛び乗ったのが悪いんだよ」
あまりにも多すぎる情報に処理が追いつきそうになかった俺の頭は、スマホの上にある丸いクルクルか浮かんでいそうだ。
「……ララって?」
情報処理を終えた俺が開口一番に尋ねたことはそれだった。
「亮介家の猫だよ。ララってばね、すっごくいたずらっ子なの。しかもなぜか亮介にだけ」
なぜか当然のように国崎が答える。彼女もララという猫に会ったことあるような口ぶりだ。
「飼い主である俺には冷たいんだよなぁ。すっごい可愛がってるのに」
「亮介が怖いんじゃない?」
「すっげー優しくしてるっつーの!」
俺そっちのけで言い合う二人は、何かとよくもめる。これじゃあ亮介の気持ちはいつまで経っても届くことはないだろう。
それにしても、海に入ったのなんていつぶりだ……? 全然思い出せないなぁ。
──パシャっ
「うわっ……!」
顔に海水がかかる。潮水だからか目がわずかに沁みた。それを腕で拭うと少しベタついて不快感を覚える。
「俺じゃねえ!」
「私でもない!」
俺がジロリと睨むと二人して声を揃える。どっちが犯人なんかこの際どうだっていい。海水が目に入ると染みることはこの町で育ったやつなら知っているはずだ。
「この……バカ野郎!」
両手ですくったいっぱいの水を何度も連続で彼らに向かって飛ばした。「きゃっ!」「わあっ!」声を上げて逃げ回る。が、嫌そうではないみたいだ。顔が笑ってる。
仕返すように彼らも水をすくい上げる。空中に弾けた水はキラッと光ったあと、ばしゃっ、ばしゃっと音を立てながらあっという間に水面へと落ちる。
「おらー、いくぞいくぞ!」
「わっ! 目が染みる〜……亮介ってば水飛ばしすぎだから! ……もうっ! 仕返してやるっ! えいっ!」
「わっ、バカ。やめろよ」
お互い制服がぐっしょりになることは気にせずに攻防を繰り広げた結果。
「うわー、すっごいびしょ濡れ! 帰りどうするんだよっ!」
「どうせこれだけ暑かったらすぐ乾くって。ねえ? 高槻くん」
「……さあな」
海岸で水かけをする日が訪れるなんて、少し前の俺は思いもしなかった。
慣れなくて落ち着かない。だけど、ふわふわと雲の上に乗っているような心地よさを感じる。矛盾した感情に俺は困惑する。