「なにやってんのー!」

 不意をついたように突然女の子の声がする。

 その声に反応した俺と亮介は、水の掛け合いを中断すると顔を声のする方へ向ける。
 すると、そこにいたのは俺たちと同じ制服を来ていた国崎だった。

「水遊び!」

 亮介が弾む声を響かせる。

 学校が昼までに終わり、そのあと昼飯も食べずに海で水遊びって……どこのアオハルだよ。東京でもそんなことしたことないわ。自問自答したあとに、ふっと口元が緩まった。

「男二人で水遊びなんてバカみたーい!」

 お腹の奥底から声を張り上げる国崎。

「茜音もするかー?」

 亮介が大きな声でそう言うと、すぐさま「やるー!」声が返ってくる。俺たちをバカだと見下げていたのは、どこのどいつだよ。

 自転車を止めて、砂に足を取られながら歩きにくそうにして俺たちのそばへやって来ると、すぐに靴と靴下を脱いで海水に足をつけた。

「亮介たち学校から真っ直ぐここに来たの?」
「おお、そうだよ」

 俺の方を向いて「なっ、幹太!」とニカッと歯を見せて笑う。

「じゃあお昼もまだなんだね」
「おー、まぁな」

 そういえば昼飯食べてない。それなのに不思議と腹は空かない。
 
「さっきからずっと水遊びしてたの?」

 国崎に尋ねられて「あっ、えっ…」狼狽える亮介は二、三歩下がり海面は水しぶきをあげる。突然「──あっ!」何かを思い出したように声を上げる。

「写真撮ってた!」
「……写真? カメラは?」
「濡れるからかばんの中にしまった」

 海岸に無造作に放置されたかばんを指さす亮介に、ふーんそっか、と納得する国崎。

「せっかく修理したのにまた壊れちゃったらじいちゃんに叱られるもんね」

 からかうように言ったあと、ばしゃっと手で水をすくった。

「じいちゃんって?」

 そう尋ねると、二人して俺へと顔を向ける。

「私のじいちゃんのこと。じいちゃん家がね写真屋さんなの。それで最近はカメラも修理もするようになったんだ」
「茜音のじいさんすっげー怖いんだよ! 今度壊したらおまえに写真を撮る資格はないって言うし!」