「顔赤いけど」
「ききっ、気のせいだろ……!」

 動揺しながら落ちた小瓶を拾うと、砂を手のひらから落としていく。が、なかなかうまく入らない。

「とにかく早く幹太も砂入れろって!」

 なかばヤケになりながら、俺に文句を言う。

 あのとき栞里は、こう言った。

 ──海岸の砂を小瓶に詰めて好きな子にあげると両想いになるっておまじないがあるの!

 俺が、渡したら両想いになれるか尋ねたら、栞里は。
 ──うん、なれるよ!

 だったらそれを信じてみたいと思ったのも事実だ。

 自然と身体が動いて、小瓶のコルクを取ると砂を拾って瓶の中へ流し込む。

「え、幹太……」
「なんだよ」

 奥歯に物が挟まったように言葉を詰まらせて「そ、それ…」俺の手元へ指をさす。
 亮介の言いたいことが手にとるように理解できる俺は、どうやらこいつのいる生活に慣れて気が緩んでいるみたいだ。

「好きなやつにあげるの?」
「さーな」

 気がつけば俺の広角は上がっていた。

 俺が教えずにいると「教えろ教えろ」としつこいくらいうざかった。

 そのあと小瓶に砂を入れ終わると、亮介は靴下を脱いでズボンを捲り上げると、海水に足を突っ込んだ。
 海面を足で蹴って、ばしゃっと水しぶきが上がった。陽射しが反射してキラキラと粒が光りながら海面へダイブする。

「幹太も早く来いよー!」

 子どものように大はしゃぎ。

 何やってんだ、こいつ。バカだろ。そう思いながら海辺へと足を進めると、ばしゃっ、水をシャツにかけられる。それはみるみるうちに染みた。

「……やったなこの野郎」

 頭に怒りが込み上げた俺は、その場で靴と靴下を脱ぎ捨てて海水に足を入れる。両手ですくった海水を勢いよく空へと投げる。亮介に水しぶきがたくさん弾ける。

「ちょ、幹太お前、ずるっ……!」
「さっきの仕返しだっつーの」
「はぁ? そんなにかかってなかっただろ!」

 まるで子どもじみた攻防に、気がつけば俺たちは水かけに夢中になっていた。

 青いインクを溶かしたように青く静かな海が広がる中、海水に足を踏み入れる俺たちの一角だけがやたらと波打って水滴が跳ねる。
 キラキラと輝く海面は、透き通るほど綺麗で、足元まで透けて見えた。
 陽射しが差し込んだ海の中は、ひんやりというよりも少し温かいくらいだった。