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「なんでここなんだよ」
なぜか学校が終わった今、俺は亮介に連れられて海に来ていた。
今から三十分ほど前に学校が終わった。今日から一週間耐久工事だと言われ半日で授業が終わることになった。
帰り支度を済ませていた俺のところに亮介がやって来た。『今から海行こうぜ』と誘われた。普段なら断るところだったけれど、やつの誘いに乗った。
俺の顔を見てニヤリと口元に弧を描いた亮介は、ジャジャーンと効果音をつける。
「これを拾おうと思って!」
俺の目の前に何かをかざした。
「……は、なに?」
きょとんとした表情を浮かべそれを見つめた。目の前にあったのは空の小さな瓶だった。
「お互い好きなやつがいるわけだし、これの効果にあやかろうと思って!」
弾む声で告げられたその言葉を聞いて、急速に手繰り寄せられる記憶。
この前栞里が『幸せになれる砂を拾うと両想いになる』と言っていた。
「一緒に幸せになれる砂拾おうぜ!」
まさかこいつがこんなことを言い出すなんて……いや、むしろこういうことを学校終わりに男二人だけでやろうと誘うところからしてこいつはアホだ。きっと単細胞なんだ。
「……幸せになれる砂って言ったってただの砂じゃん」
俺は栞里に言ったことと同じことを言う。
「そんなこと言うなって! 現にこれ渡したやつらが両想いになってんだからさぁ!」
「それ、ここの町だけの話だろ」
小瓶に海岸の砂入れてそれを好きな人にあげて両想いになるんだったらこの世界、両想いで溢れているはずだ……と心の中で文句をついていると「いーや!」と俺の意識に入り込んできたやつのうるさい声。
「意外と人気なんだからな! 噂が噂を呼んで幸せになれる砂を求めて県外からも買いに来る人もいるくらい人気になりつつあるんだからな! ほんとだぞ!」
まくし立てられるように告げられた言葉は、どこか説得力に欠けているように聞こえる。
「とにかく幹太もこれに入れろって!」
小瓶の一つを俺へと無理やり手渡される。
「……それ、国崎にあげるの」
頭に浮かんだ素朴な疑問を投げつけると「──へっ?」動揺した亮介は声を漏らしたあと、顔をりんごのように赤面させた。
「なななっ、なにが……?」
分かりやすいほどに慌てて小瓶を砂の上に落としてしまう。これで隠せていると思ってるのが不思議なくらいだ。