「──あっ、じゃあ私がうまくいくおまじない教えてあげる!」

 突然、花が音を立てて咲くように顔色がぱあっと明るくなる栞里とは対照的に、俺は驚いて、フナのように口を開けたままぽかんと固まる。

「あのね、海岸の砂を小瓶に詰めて小さな貝殻を入れて好きな子にあげると両想いになるっておまじないがあるの!」

 そう言ったあと、ひまわりのように笑う。

「……両想い?」

 いや、そんなまさか。

「あ、かんちゃんその顔は信じてないね!」

 図星をつかれてどきっと顔を強張らせると、俺を見てクスッと笑った栞里。

「ほんとに叶うんだから!」

 熱を込めて告げられる。

「……ただの砂なのに」

 俺が指摘すると、チッチッチッと人差し指を立てながら短く声を漏らす栞里。

「ただの砂じゃなくて〝幸せになれる砂〟なんだよ!」
「……幸せになれる砂?」

 いきなり現れる言葉に反芻して、頭を悩ませていると「そう!」俺の言葉に何度も頷いた。

「だからね、ここに落ちてる砂は、みーんな幸せになれる砂ってことなんだよ!」

 広大な海岸に両手を広げて、鼻高々にそう言って笑った栞里。

「あ、でもね、最近はこの近くの雑貨屋さんに〝幸せになれる砂〟ってのが売ってるからそれを好きな子に渡してるみたいだけどね!」

 栞里の言葉を信じて飲み込もうとした矢先、そんな近道みたいなことを教えられて気が抜けた俺は、ぽかんと口を開けたまま固まる。

「実際にそこのお店の人が海岸で砂を拾ってるみたいだから効果的には同じみたいだよ」
「じゃあ最初からそっち教えてくれたら……」

 何もわざわざ遠回りしなくてもよかったのに、そう思っていると「そうなんだけど」と苦い笑みを浮かべた。

「一番は自分で拾った方が効果があるんだよ!
 だからかんちゃんに教えてあげたのにぃ……
 かんちゃんに教えてあげなければよかった!」

 ぷくっと頬を膨らませて拗ねる栞里。

 ……そうか。栞里は俺のために教えてくれたのに。その気持ちを蔑ろにしたらダメだよな。

「それ渡したら両想いになれるかな」

 本音がぽつりと口から漏れた。

 俺の言葉に、え、と一瞬だけぽかんとしたあと口元に弧を描いた。

「うん、なれると思う!」

 願掛け、なんて信じたことはなかったけれど、長い人生のうちのたった一度くらいなら信じてみてもいいのかもしれない。そんなふうに思うようになったのは、栞里と出会ったおかげだった──。