「──あっ、見て! 今、海をイルカが跳ねた!」

 背後で騒ぐ栞里が少しジタバタするから自転車はグラグラする。

「ちょ…危ないって」
「だってだってほんとに今イルカが…!」
「それ見間違いじゃないの?」
「ちょっとかんちゃん失礼だよ! 私、視力だけはすごくいいんだから!」
「だけはってなに、だけはって」
「も〜、かんちゃんってばうるさい!」

 緩やかな下り坂を他愛もない会話を続けながら自転車で下って行く。
 少しずつ平坦になりつつある。あんなに高かった目線が低くなり、青い海が同じ目線にいるようだ。

「こんなところにイルカなんていないよ、きっと」
「いるかもしれないじゃん! ……いるかだけに」

 栞里がダジャレを言った。今度はそれに俺が大笑い。そしたら彼女は恥ずかしそうに「なんで笑うの!」と大激怒。それにまた俺は笑うと、恥ずかしそうに怒っていた栞里もつられて笑い始める。

 ざざーん。波がリズムを繰り返すように押し寄せる。インクを溶かしたように青く静かな海が広がっていた。

「──あっ、ねぇねぇ。このまま海に行こうよ! 今ならきっと海貸し切りだよ! プライベートビーチだよ!」

 浮き浮きするように声が弾んでいる。

「それ、普段は人が少ないってこと?」
「言い換えたらそうとも言うね!」

 学校のない日の休日。部活に明け暮れる生徒が多い中、俺は栞里と自転車で二人乗りをした。そしてこれから栞里が行きたいと言った海へ向かう。

 それを〝青春〟と言わず何と呼ぶのだろうか──。