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 ある日の休日の公園。

「なんか最近の幹太くん、すごく表情が穏やかになったね」

 なんの脈絡もなく告げられた言葉に困惑した俺は、え、と声を漏らす。

「もしかして自分では気づいてない?」
「いや、まぁ、だってふつうだし……」

 穏やかになったと言われても心当たりなんか一つもない……いや待てよ。もしかしてあいつらか?

 最近、俺の身の回りで変わったことと言えば、亮介が当たり前のように昼休みに来るようになったことと国崎が気軽に声をかけるようになったこと。
 一旦意識すると、それ以前の記憶が連鎖的に蘇ってくる。

「もしかしてその顔は心当たりがある顔かな」

 そうなることを初めから見通していたような口ぶりをして見せて、口元に弧を描く。

「あんなのただ鬱陶しいだけだよ」
「どうしてそう思うの?」
「面倒なやつらっていうか……勝手に変なあだ名とか付けようとしたりするんだよね」

 急速に手繰り寄せられる記憶に、思わずしかめっ面を浮かべる。

「どんなあだ名つけられそうになったの?」

 顔にぱっと花が咲いたように目をキラキラと輝かせる。

「……かんちゃんって」

 思いのほか俺の声は小さくて、隣にいる栞里に届いたのかすら曖昧だった。

「そのあだ名いいと思う!!」

 ほんのわずかな静寂を貫くように盛大に響く栞里の浮き浮きした声に反応が遅れた俺は、ぽかんとした。

「私もかんちゃんって呼ぼうかな!」

 だけど、暴走しかける栞里の声にハッとした俺。

「ダメ!」
「えー、なんで? かんちゃんって呼び方可愛くない?」
「ダメなものはダメ」

 心をぐっと鬼にしていると、「ケチ〜」不貞腐れたように頬を膨らます栞里。それすらも愛しいと思ってしまうのだから、俺の特別な感情は末期らしい。

「──あっ!」

 不意に声をあげた栞里は、ぴょんっと立ち上がり俺の前にやって来る。
 どうやら切り替えが早いらしい。ものの数秒で立ち直る。

「かんちゃんに一生のお願いがあるんだけど!」

 そう言って、ぱちんっと両手を合わせた。

 〝……かんちゃん〟?

「いやいや、ちょっと待って! 今、その呼び方はダメだって言ったじゃん……!」
「そうなんだけど、ちょっとお願いがあって」
「そのこととあだ名は関係ないでしょ……!」

 あだ名で呼ばれて、心が波立ち落ち着かなくなる。

「かんちゃん、私の一生のお願い聞いてくれないかなぁ……?」

 再度、俺の前で力強く両手を合わせる。

 そもそも〝一生のお願い〟という言葉を使う人は、過去にも何度か使ったことがあるはずだ。それはもう口癖のように。