「……国崎、すごいやつなんだな」

 初めの頃は大嫌いで、心底鬱陶しいと思っていたやつのことを尊敬に値するなんて、人間とは不思議な生き物だ。

「すごいやつだけど、実はそうじゃないんだ」

 俺の言葉を肯定したあと同時に否定もした亮介に、え、と困惑して小さな声を漏らす。

「見た目はすごく強く見えるけど、根っこの部分はすごく弱いんだ。ただそれを隠して強がってるだけで……」

 悲劇を独りで背負っているかのような深く沈んだ顔を浮かべたあと。

「だから、茜音のことを支えてやりたいんだ」

 力強く発せられた言葉は、心の層のずっと奥深いところから泉のように湧いてくるようだ。

 ずっと俺は、自分の世界だけが不幸だと思っていた。そして世界は不公平だと思った。
 母さんが病気になって、もう治らないと知った。野球をやる気もなくなって、俺が幸せになることも諦めていたし、なってはいけないような気がしていた。だから、全部諦めて手放した。それがせめてもの罪滅ぼしだと思ったからだ。

 だけど、それは俺の独りよがりで間違っていたみたいだ。

 みんな何かを抱えている。悩んでいない人間なんか一人もいない。
 東京にいた頃は、それが表面化していなかっただけで、もしかしたら友達も何かを悩んでいたのかもしれない。

「今まで助けられた分、今度は俺が茜音の力になってやりたいんだ」

 そう言って笑ったあと、あいつには内緒だからな、と俺に口止めをした亮介は、どこか大人びた表情を浮かべていた。

 同じ高校一年生なのに考えも性格も違って、俺なんかより幾らも上のような気がした。そう思ったら、──ああこいつには敵わない、なんとなくそう思ったんだ。