「そんなにあいつのこと好きなんだな」

 そう声を落とせば、キョトンと鳩のような顔つきで固まった亮介。ハッとして「や、違う!」慌てたように椅子から立ち上がるが、クラスメイトの視線を浴びて恥ずかしくなったのか、顔をりんごのように真っ赤に染めながら静かに座る。

「幹太のせいで恥かいただろ!」
「はあ? だってほんとのことだろ」
「いや、まぁそうだけど……ってそうじゃなくて!」

 声を荒げたあと、あーでもないこーでもないと頭をしばらく悩ませる。急に歳をとったかのように顔色が濁る。

「……部活に入部した理由は違うっていうか……」

 記憶を手繰るようにしてぽつりぽつりと答え始める。

「茜音が、どうしても写真部がいいって言うから。それに思い出に残る景色を撮りたいって言って聞かなかったんだよ。でもあいつ、一人突っ走るところがあるから心配で…」

 一度国崎へと目を向けた亮介の表情は、胸に恋心を秘めている苦しさと、妹思いのような切なさが絡み合っているようだ。

「まぁでも、あいつのこと好き……だったし別に入ってもいいかなって思ったんだよ」
「……ふーん」

 こいつ今、のろけたことにも気づかずに話を続けたな。聞いてるこっちがむず痒くなるっつーの。

「だけどさぁ、入部したのはいいけど思ったより部の人気がなくて、入ってすぐに廃部寸前って気づいたんだけどな」

 乾いた笑みを浮かべたあと、思い出したようにパンにかじりついた。

 どうやらこれで入部した説明は終わりみたいだ。国崎が写真部にどうしても入部したかったかは分かった。が、一つだけ答えが見えないものがあった。

「運動部じゃなくてよかったわけ」

 不意をついたように尋ねると、亮介の笑みが一瞬固まった。その一瞬の動揺を俺は見逃さなかった。

「亮介、サッカー部とかバスケ部が似合いそうじゃん」

 黙る亮介に言葉をたたみかける。

 少なくともこいつが自ら文化系の部活に行くとは思えない。実際に国崎のためだったし。ほんとは他に入りたい部活があったんじゃないか。

「幹太には嘘つけないなぁ…」

 観念したように苦い笑いを浮かべたあと、頭を掻いた。

「まぁたしかに、サッカー部に憧れはあったんだ。中学の頃はサッカー部がなかったから、高校に入学したら入部してみたいって思ったこともあった」

 穏やかな表情の裏に堪えられている深い悲痛な思いを感じた。