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昼休みになると購買でパンを買ってきた亮介が、椅子を引いてどかっと俺の前に座った。
「もう九月も半分過ぎてんのにまだ暑いのなぁ」
ばりっとパンの袋を開けると、大口を開けて一口かじる。もぐもぐと咀嚼をして食べ終わるとまたかじって──を繰り返す。
「…なんでここで食べてるわけ」
「なんでって友達じゃん。一緒に食べるのは当たり前だろ」
──は? 友達?
「……誰と誰が」
心の中にまさかと、もしかしてが錯綜する。
パンをかじろうとしていた亮介はかじるのをやめて、一瞬きょとんとしたあと「ああ」とことの流れを理解する。
「俺と幹太だろ」
だろ、ってさも当然かのような言い方で。
「友達じゃないし」
歯の隙間から言葉を絞り出すように声を漏らす。
ほんと意味が分からない。許したわけじゃないのに勝手にそこに居座るし、ずかずかと土足で心の中に踏み込んでくるし。うざいくらい人懐っこいし。
こいつが俺に話しかけるようになってからクラスメイトは俺と亮介を友達だと認識し始めたのか、当然のようにあいさつや軽い会話を持ちかける。少しずつ俺の生活が侵食されつつあった。
「知ってる? 友達ってな、もう気づいたときになってんだよ」
とっておきの打ち上げ話をするような芝居じみた声で調子に乗ったことを言うから、机の下ですねを蹴ってやった。
「いてっ」
わざとらしく声をあげたあと、ちらちらと俺へと視線を向ける。が、俺がそれに無視をしていると、冷たいなぁ、と笑いながら言って演技をやめた。
「もう、真由ってば!」
不意に国崎の声がする。ちら、と顔を向ければ彼女は友人と楽しそうに話しながら昼食を食べていた。
「なぁ…」
「ん?」
「なんでおまえたち写真部に入ったの」
そう尋ねると、雷に打たれたような呆気に取られた不思議な顔を浮かべていた。
写真部という文化系に属する部活は、人数集めに苦労する。それはどの学校も同じだろう。それなのになぜあえてその部活を選んだのか。
「廃部寸前だってこと、入部する前から分かってたんじゃないの」
わずかに目線を下げたあと「あー…」どこか気まずそうに、ちら、と国崎の方を見た。
「茜音が写真部に入りたいって言ったから」
つい今しがた芝居をしていたやつと同一人物だとは思えないほどに、表情も声も寂しげだった。
なんとなく予想してはいたけれど、やっぱり国崎のために入ったのか。