「とくにね、海に反射する花火がすっごく綺麗なんだよ! 夜空を照らす花火と海面を彩る花火はもうね……一度見たら忘れられないよ!」

 熱を込めたようにまくし立てられた言葉に、呆気に取られてぽかんと固まる。

「最近はね、観光客もすごいんだよ。ここの噂を聞きつけて夏になると訪れるの。すごーくたくさんの人で溢れかえるんだよ。今年もね、すごく賑わってたの!」

 まるで新しく生まれ変わり世界に飛び出したばかりの生き物のように生命力を身体中から発していた。

「でも残念。あともう少し早くに幹太くん引っ越して来たら花火見れたのに、おしかったね」

 今度は苦い笑みを含ませながら、子どもをなだめるような言葉を告げられた。

 夏の風物詩の花火大会とか全く興味がなかった。小さい頃のトラウマのせいもあるけれど、あんな人混みの中、わざわざ近くまで行って花火を見て帰りどれだけの時間をかけて家まで帰るのかを計算すると今さらながらにゾッとする。
 だけど、田舎ならここは特等席だ。夏になると観光客が訪れるといっても、東京ほどではないだろう。ここじゃなくてもあちらこちらから花火を見上げることも可能だ。

 目の前を何も遮るものがないと、ここから見える花火はすごいのだろう。
 夜空に浮かぶ無数の色鮮やかな花火や身体の奥にまで響く芯のある音を想像しただけで、少し身震いしそうになる。

「そこまで言うなら見てみたかったなぁ」
「残念だけど花火は来年までおあずけだね」

 嬉しいような悲しいような、それが複雑に絡み合う表情を浮かべた栞里。

「来年かぁ……」

 反芻しながらぽつりと呟くと、胸に開いた風穴に冷たいものが吹き抜けていく。

 きっとその頃には、栞里と過ごすこともないんだろうなぁ。

 展望台に吹き付ける風は強かった。
 海から流れてやってくる潮風は、びゅうびゅうと少し荒々しいほどの音を立てながら面と向かって吹きつける。まるで地面全体が震えているような音だ。