しばらく何もない一本道を二人で歩くと、大きな校舎が見えてきた。それに指をさして「あれは小学校」とか「あっちは中学校」とか町案内してくれる。
 家とは反対側の道なんてまず行かないし通らない。だから小学校があるなんて知らなかった。

 小さな商店街を抜けたあと、最寄駅が見えた。電車通学をしている生徒はここから学校へ来てるのか。俺と同じ制服を着た生徒がずらずらとホームで待っている姿が見えた。
 その光景を見て一瞬懐かしく思う。
二ヶ月ほど前は、俺もあんなふうに電車で学校へ通っていた。もちろんホームで二十分も待ったことはない。

 二人で歩いた町は、俺にとって小さな発見がたくさんあった。

 一つ目は、人が優しい。栞里が言ってたように商店街の人やすれ違う高齢のおじいさんやおばあさんは気さくに話しかけてくれる。「もう学校は終わったのかい?」とか「コロッケ食べるかい?」とか東京では一度もそういうことはなかった。
 結局、コロッケをタダでもらった。それを栞里と半分こして食べた。

 二つ目は、野良猫がたくさんいた。
商店街の人曰くここの野良猫はこの町の住人みんなで世話をしているのだとか。腹を空かせた猫が来たらキャットフードをあげて怪我してる猫がいたら病院へ連れて行く。そのおかげもあってすれ違う猫はみんな人懐っこくて足にまとわりついてくるほどだ。

「ここ、私のお気に入りなんだ」

 そして三つ目は景色が最高だ。
 栞里に連れて来られた場所は、高台の海が一望できる展望台だった。螺旋階段のように並べられた数百段の階段を五分くらいかけて登った。もちろん疲れた。でも、その分景色を見たときの感動は最高潮で。

「……すっげー」

 思わずそんな声が漏れた。

 すると、隣にいた栞里が「すっげーでしょ」と俺の真似をしたあとにふふっと笑うから、俺の心臓は早鐘を打ちつける。

「ん〜、いい風だなぁ」

 ぐうっと空に向かって両手を伸ばす。風に揺れる髪の毛やワンピースの裾がふわりふわりと揺れる。

「私ね、ここが一番好きなんだぁ」

 展望台から海を眺める彼女は柔らかい笑顔を浮かべる。

「家族とね、子どもの頃ここに来たときの感動がすごくていまだに覚えてるの。花火がすごく大きく見えてね、色鮮やかで綺麗だなぁって、子どもながらに強烈に覚えてるんだよね」

 糸を手繰るように過去の出来事を思い出し、ポツリポツリと紡いでいく。