「たしかに空気がおいしい」

 ブランコに座りながらすんっと息を吸う。「でしょ!」と得意げに言う栞里は、まるで子どものようにあどけない表情を浮かべていた。

「それとね、冬になると空気が澄んで流星群がすごーく綺麗に見えるんだよ!」

 一気に多くの情報が次から次へと現れて、俺の頭の中はそれを吸収するのでやっとだ。

「……流星群?」
「幹太くん、見たことない? 流星群、すごいんだよ。ピカッて光ったらあっという間にいなくなっちゃうの!」

 子どものようにはしゃぐ栞里を見て、気が緩むと思わずクスッと笑うと「あー、幹太くん信じてないね」と告げられる。

「ほんとにすごいんだよ、流星群!」
「そんなに?」
「幹太くんも見てみたらにきっとそのすごさが分かると思う!」

 そこまで熱弁されたら流星群とやらを見てみたい、そんな気持ちにさせられる。

「流星群をね、そこのジャングルジムのてっぺんで見るのが子どもの頃の楽しみだったの!」

 どうやら彼女の中で流星群が衝撃的な綺麗さらしい。

「……そこまで言うなら見てみたかった」

 今はまだ九月。秋になったばかりだ。

「じゃあ冬に一緒に見よっか」

 突飛もないことを告げられて、頭の中が真っ白になる。固まった俺を見てキョトンとした表情を浮かべた栞里は「幹太くん?」名前を呼ぶ。

「……ほんとに一緒に見てくれるの?」

 栞里には、好きな人がいる。だから不確かな口約束は、きっと果たされない。

「うん、一緒に流星群見よう。約束!」

 それなのに栞里はひまわりのように笑った。
 
 まだ秋に入ったばかり。流星群を見られるのは、もう少し先になりそうだ。「──あっ!」おもむろにブランコから立ち上がり、俺を見つめた栞里。

「ちょっと今から時間ある? もう一つ紹介したいところあるんだった」

 公園の真ん中に立てられている時計塔は、もう少しで十六時過ぎを示そうとしていた。今から帰ったってどうせ家は一人だからと、その問いに承諾すると「じゃあ早く行こ!」と彼女は走って公園の入り口まで向かう。

 せっかちだなぁ……そんなことを思いながら、もう少し彼女と過ごすことができる。その現実の嬉しさの方が何倍も上回っていた。