「うわー、懐かしい!」
そこから数分歩いた場所に大きな公園が見えた。すると栞里は公園の中へと駆ける。
その姿は、まるで大学生に見えなかった。俺は、自転車を止めたあと追いかけた。
「ん〜、ブランコに乗るのなんて久しぶりだなぁ! いつ以来だろう……?」
ブランコに座ると、地面を蹴って前後に揺れる。風に攫われる髪は心地よく揺れる。目を細めてその風に身を委ねる。
今日は優しい穏やかな風が吹いていた。
「ここによく来てたの?」
「私がまだ小学二年くらいの頃かな。妹とよく来てたんだぁ。この公園ね、地元の子たちで人気の場所なの。ほかに行くところもないし」
言葉通り公園の周辺に人を集めるようなめぼしい遊び場はない。
「でもね、ブランコはいつも人気で埋まってることが多くて、いつここに来てもブランコは乗れなかったんだよね。そのときはジャングルジムで遊ぶことが多くて」
「そうだったの?」
「前はジャングルジム黄緑色だったんだけど今は違うね」
ブランコの目の前にあるジャングルジムは、真新しかった。錆びて使えなくなったものを新しいものに変えたんだろうか。
変わっていないものもあれば、変わるものもある。
「それと、さっき小川見たでしょ? あそこね、すごーく綺麗だから毎年蛍が現れるの」
「……蛍?」
「そう! 見たことない?」
「一度もない」
蛍と言えば綺麗な川にしか生息しないって聞くけれど、そんな珍しい生き物がこの町にいるなんて。東京にいた頃は一度だって姿を見たことはない。
「夜になるとね、光るの。蛍が。その蛍が、たまに間違ってここまで飛んで来ることがあるんだよ」
「それだけこの町自体の空気が綺麗ってことなんじゃない」
「どうかなぁ……でも、川や海はすごく水が綺麗だからそうなのかも! 空気もおいしいし!」
水を得た魚のように新鮮でウキウキしだす栞里は、次々と喋りだす。
東京にいた頃は空気とか気にしたことなかったが、この町へ来てその違いにすぐに気づいた。排気ガスがほとんどない。深呼吸をすると自然豊かな匂いが鼻から入り込む。草や花の匂いで充満している。