「……ここどこだ?」
何の目的もなくやって歩いた俺は、ここがどこだかなんか分かるわけもない。ただあるのは、小川だった。それ以外目印になるものなんか一つもなかった。
「公園の近くだよ」
「……公園?」
どうやら栞里がこの場所を知っているみたいだ。ホッと安堵したあと、彼女へと顔を向ける。が、視界に映り込んだのは俺がまだ栞里の手を握ったままだという事実だった。
「──ご、ごめん!」
慌てて手を離すと、「ううん」と首を振った栞里。そこまで緊張している様子はない。どうやら俺だけが意識していたみたいだ。いまだ鳴り止まない鼓動が口から出て来そうになる。
止まれ、心臓。鳴るな、鳴るな……!
心を落ち着かせそうと呪文のように唱えるけど、手を繋いでいた名残りがまだ手のひらにあって、それとリンクするように鼓動の鐘も鳴り続ける。
栞里に背を向けて、胸を押さえる。
「あのね、幹太くん」
俺の気なんか知らずに、彼女は話しだす。
「今日は幹太くんを公園に連れて行ってあげようと思って学校に迎えに行ったんだ!」
浮き浮きして、顔の皮膚までがしっとり輝きだすように笑いながら告げる。
「……公園…?」
「うん。私が昔よく行ってた場所なの。ほら、幹太くんまだこの町のこと知らないって言うし、教えてあげようと思って」
その言葉を聞いて急速に手繰り寄せられる記憶。
そういえば、この前栞里と約束した。この町を案内するってあれだ。
突然学校に栞里がやって来るから、そんな大事な約束さえ緊張の渦に飲み込まれて忘れていた。
「それとも今日何か用事があった? それなら今度でも……」
先ほどまでとは打って変わって太陽が雲間に入ったように顔が曇る。
「今日でもいいよ!」
「……え?」
仕方なくとか妥協とかそんなんじゃない。
「……じゃなくて、今日がいい」
さっきまで思春期の中学生のように緊張していたのに、自分調子良すぎだろ。
「だから、案内してほしい」
それでも欲には勝てず、彼女が幼少期を過ごした場所を知りたかった。少しでも栞里に近づくために。
「うん、分かった。じゃあ着いて来て」
嬉しそうに頬を緩めたあと、栞里はこっちこっちと言って前を歩き出す。俺は、そのあとを追いかけた。