放課後、門を抜けて自転車にまたがろうと思った矢先「幹太くん」聞き覚えのある声が聞こえた。
もしかしてとまさかが錯綜しながら、顔を向けると視線のその先にいたのは。
「栞里……?!」
いたずらっ子のように笑った栞里が、俺に手を振っていた。
まさかが当てはまった瞬間、頭の中が一瞬真っ白になって自転車から手が外れると、がしゃーんと音をたてて地面に横たわる。
「ちょっと大丈夫?」
慌てて俺の元へ駆け寄ると、自転車のカゴの中から放り出されたかばんを拾って「はい」と俺に手渡した。ばくばくと心臓はうるさかった。まるで真夏の蝉のように。
「……こんなところで、何してるの」
突然の訪問者に緊張して口が急速に乾いてしょうがない。落ち着け俺。
「幹太くんのこと待ってたの!」
突飛のないことを告げられて、急ブレーキをかけたような動揺が走り、また自転車を倒しそうになる。
俺のこと待ってた……? 冗談か? それともこれは夢か? 暑さのあまり夢でも見ているのか?
「かーんーたーくん」
ぽかんと固まる俺に、しっかりと聞こえるように誇張して俺の名を呼ぶ。ハッとして意識を現実へと戻せば顔を覗き込むようにして俺を見つめるから、今度は心臓が早鐘となって胸を突き続ける。
……ほんと、心臓に悪すぎる。
「な、なに」
「今ぼーっとしてたから。おまけに顔赤いし……熱でもある? 体調悪い?」
今度は心配そうな表情を向けて俺に手を伸ばす。どうやら熱を測ろうとしているらしい。
「熱なんてないよ」
すんでのところで手を掴む。
こんなところで女の子におでこなんか触られていた、なんて場面をクラスメイトに目撃でもされたら明日どうなってしまうかなんて容易に想像できる。だから俺が今、すべきことはここから逃げることだ。
「栞里、ちょっと来て!」
彼女の手を掴んだまま、もう片方の手で自転車を押す。困惑した彼女は「え、あの、幹太くん?!」後ろの方で騒がしそうにするけれど、ずかずかと歩いた。少しでも早く学校を離れるためだ。
亮介に見つかれば一番厄介なことになるからだ。