「二人してなにやってんの!」

 俺たちの間にひょっこり割って入ってきたのは、話題の中心にいた国崎だった。

「あっ、いやっ……べつに! なぁ、幹太!」

 さきほどまでの態度とは打って変わって狼狽える羽田は、慌てて俺に助けを求める。

「亮介いつのまに名前で呼んで……」
「さっき! さっき仲良くなったんだよ。な?」
「へえ、そうなの?」

 羽田に続いて国崎までもが俺を見る。

 つい最近まで犬猿の仲だったなんて誰が思うだろうか。もちろん俺は仲良くなったつもりはないし親友になった覚えもない。

「いや、べつにただのクラスメイト。……ああ、そのついでに亮介がこんなこと言ってたっけ。好きなやつがいるんだ、って一方的に」

 さっき俺をからかった仕返しだ。

「えっ、好きな人? 亮介好きな人いたの?」

 浮き浮きして、顔の皮膚までがしっとり輝きだすように笑いながら問いただす。まるで走り出したら止まらない機関車のようだ。

「いやっ、あの……」
「ねぇねぇ、誰なの! 私の知ってる人? それとも別のクラス?」

 どう誤魔化そうかと悩んでいる彼は、複雑そうな表情を浮かべながら俺を見る。
 だけど助けてやらない。俺たちは、親友でもなければ、たまたま偶然同じクラスだっただけだ。

「おい、幹太!」

 切羽詰まったように助けを求める亮介の顔は、悲惨なほど歪んでいた。俺は、広角を上げて笑った。

「──あっ、高槻くん笑った!」

 不意に俺に指をさして驚いた表情を浮かべるから、一瞬にして俺はクールダウンする。

「……そりゃ人間だから笑うだろ」
「いや、そうなんだけど……この前まで、高槻くん猫みたいだったから」

 国崎の口から溢れた言葉に「……は?」俺は反応する。

 ……俺が〝猫〟?

「……なに、猫って」
「この前の高槻くん、すごく私たちのこと警戒してたでしょ。だからそれが全身の毛を逆立てて威嚇してる猫みたいだったなぁと思って!」

 そう言ったあと「黒髪だから黒猫だね」と彼女は続けて笑った。

「やだよ猫とか」
「なんで? 猫可愛いじゃん!」
「そういう問題じゃないだろ」
「えー、そうかなぁ」

 例え方が嫌だって言ってるんだよ。

「そういえばこの町、野良猫がいるんだけどすっごく可愛いんだよ! 毛もつやつやしててね、人を見るとにゃーって鳴くの」

 思い出したように喋るから、話の収拾がつかなくなる。