◇
栞里と連絡先を交換してから毎日のように連絡をするようになった。『今日はあの子とどうだったの?』『好きな子とは話せた?』『発展は?』などなど主に、俺の好きな子に関することばかりが送られてくる。
「なににやけてんの」
スマホに夢中になっていると、どこからともなく声が落ちて来る。ちら、と顔を上げれば羽田が俺を見下ろしていた。
「……なに」
「いやあ、何でそんなににやけてるのかなぁって思って」
「にやけ……?」
突飛もないことを告げられて、頭の中が一瞬で真っ白になる。
「好きなやつと連絡でも取ってんの?」
「……まさか」
「今、間がなかったか?」
「いや、ねーよ」
「いーや、あった! あったね!」
初めの三日間くらいは部活の勧誘がすごかった。サッカー部や野球部やバスケ部などなど。もちろん東京についての質問もされた。知らない土地に憧れがあったんだろう。が、三週間近くが過ぎた最近、クラスメイトは騒がなくなった。
「好きな子どんな人?」
だけど、羽田のやつだけはなにかと俺に付き纏う。
「だから、いないって」
チッ、と舌打ちをするが怯む様子も見せずになーなーなーとまくし立てるからこちらも口調が悪くなり「いないっつーの」乱暴な言葉に早変わり。
高校生ともなれば恋だの愛だの騒ぎたがる年頃なのも納得できる。が、それは女子だけの話だ。
しかし、羽田は平然とした表情で好きな子について尋ねる。
平らな水のおもてにいきなり水を投げられたように、心は波立ち騒いで落ち着かなくなった。
「そういう羽田はどうなんだよ」
投げられた言葉にこちらも投げ返すと「……へ」と固まった羽田。しばらくすると表情はみるみるうちに赤くなる。
──こいつ、分かりやすい。
「好きなやついるんだ」
「いや、あの」