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「母さん、今日も来れたよ」

 一度家に帰ってから病院へとやって来る。

 母さんは、嬉しそうに「幹太」と微笑んでベッドのスイッチを押して起き上がる。

「今日は調子どう?」
「ええ、ずいぶんいいわ。お昼もね、結構食べられたのよ」
「そっか、よかった」

 ここの病院からは海がよく見える。母さんが好きだと言っていた海が。だから、元気なのかもしれない。

 やっぱり、こっちに引っ越して正解だったのかも。

「幹太はご飯食べてる?」
「食べてるよ」
「お父さんは大丈夫?」

 今まで家のことは母さんに任せっきりだった俺たちは、初めて家事をしてその大変さを痛感させられる。洗濯だって洗濯機に入れたら終わりじゃない。洗い終わったら取り出して干して、乾いたら取り込んで畳んでまでが一連の作業だ。料理だって家庭科でしかやったことなんてなかったから、初めて作った卵焼きはほぼスクランブルエッグになったし目玉焼きなんか焦げで食べられるものじゃなかった。
 それに加えて自分たちの昼飯まで用意してくれていた母さん。今ではすっかり俺の昼飯はパンかおにぎりになった。自分で全部をやるのはさすがに無理だった。

 ──なんてことは言えないので。

「うん、大丈夫だよ」

 父さんも料理本を買って練習しているみたいだけれど、まともな料理が作れそうになるまでもう少し時間がかかりそうだ。

「ほんとかしら。幹太ったらすぐカップラーメン食べそうなんだもの。お母さん心配だわあ……」

 こういうとき母というものは嗅覚が鋭いのだろうか。料理が失敗したときは大抵決まってカップラーメンだ。

「カップラーメンも今では美味しいの出てるんだよ!」
「あら、それじゃあやっぱり食べてるのね」
「あっ、えと、それは……」

 まずい。墓穴を掘った。とりあえず苦笑いをして誤魔化すと「もう、幹太ったら……」と呆れたように肩を落とす。

 カップラーメンは美味しい。が、美味しいものは塩分が強めだ。

「男二人暮らしだと衣食住が心配になるわ、ほんとにもう……」

 母さんが入院するようになってから、家の中は綺麗とは言えなくなった。それでもある程度お互い家事をするようになって、最初の頃と比べれば随分マシになった方だ。

「母さんが心配しなくてもちゃんとやれてるから大丈夫だよ」

 気を利かせて言うが、「幹太の大丈夫は大丈夫に聞こえないわ」俺に頼りなさを感じたのか引き出しへ手を伸ばした母さんは、ノートを取り出して俺に手向ける。