「写真部の顧問になるまではカメラのことなんか全く分からなかったんだがなぁ、写真の楽しさを知ってしまったらもうダメだな」
「え…途中から顧問になったんですか?」
「ああ。長年写真部の顧問を務めていた先生が定年することになってなあ。それで俺が後任を務めることになったんだ。初めはそりゃあ分からないことだらけだった。まるで暗号だったな」

 先生はしゃべりだしたら止まらない。まるで機関銃のようだ。

「フィルムカメラについて生徒に聞きながら勉強したんだ。どっちが教師で生徒か分からんもんだなぁ」

 先生は、紙のように顔をくしゃくしゃにして笑った。

「知らないことを知ると楽しいぞ。未知の世界が開けたって感じだなあ!」
「はあ」

 言葉が次々とまくし立てられて、呆気にとられた俺はぽかんと固まる。そんな俺に気がついて「おっとすまん」先生は頭を掻きながら、苦笑いを浮かべた。

「入部届を出したといっても高槻が部活に出られない事情を俺は知ってるし、このことは俺から校長に話を通してやるから心配するな」

 俺の肩を数回ぽんぽんと叩いたあと、「じゃこれは預かっておくな」と言ってパタパタとスリッパの音を鳴らしながら廊下を歩いた。

 もちろん俺は部活に参加するつもりはない。名前を貸しただけだ。
 だけど、元々顧問ではなかった先生が興味をもって今は楽しそうにするまでに夢中になっている。そのことに少しだけ興味が湧きそうになる。

 あの二人のように部活に打ち込めることがいつか俺にもできる日が訪れるのだろうか。

 高校生で放課後に部活動に明け暮れる。それはもはや青春そのものだ。それを少しだけ羨ましく思った──。