放課後、自転車置き場に寄る前に職員室に立ち寄った。
「あれ、高槻どうした?」
ちょうど職員室から出てきた先生と鉢合わせする。
「あのこれ……」
二つ折りにされたままのしわくちゃだらけのプリントを手渡すと、「ん? なんだ?」キョトンとした表情を浮かべながら受け取って中を確認する。
「これ、入部届じゃないか。どうしたんだ。部活に入る気になったのか?」
「あー、いや、そういうわけじゃないんですけど……」
歯切れが悪いように言葉を濁す。
「ああ、もしかして国崎か?」
先生は的を得て答えるから、鳩に豆鉄砲を食らった気分になる。
「先生、なんで知って…」
「知ってるも何も写真部の顧問は俺だからなぁ。それで今月末までにあと一人入部しなければ廃部になるってこともな」
淡々と告げられる言葉に、開いた口が塞がらないとはまさしくこのことだ。
「どうせ国崎か羽田が強引な手を使ったんだろ」
呆れたように言って笑った。
担任の先生が顧問ならあいつらに任せてもよかったのかもしれない……いやでも、どうせくだらない理由を言うに決まってる。
「でもまぁ、写真部も意外と楽しいもんだぞ」
「楽しい…ですか?」
「おお、そうだぞ」
そもそも写真部ってどんなことやるんだろう。写真を撮るだけか? それとも撮る構図を考えるのか? カメラは? デジカメか? なんて言ったっけ、あの難しい名前……
「フィルムなんとか…ってやつで撮るんですか?」
唯一頭の部分だけ覚えていた俺。
「そうそう、フィルムカメラな。俺も最初はデジカメと何が違うんだって思ってたんだが、フィルムカメラいいぞお! 雰囲気や味が全然違ってくるんだ」
さきほどまでとは打って変わって水を得た魚のように新鮮でハツラツと楽しそうに話す先生。
よほど写真を撮るのが好きらしい。好きなものを語るとき人は自然体になる。
だから、先生にとってこれが〝素〟なんだろう。