今日は、朝から雨だった。
休み時間、ちょうど国崎と羽田が一緒にいるところを見かけて声をかける。
「これ」
言われていた入部届を国崎に手向ける。
入部理由の場所には、本来ならば部に入りたい理由を書かなければならないのだけれど俺に理由なんかない。しいていうなら、名前を貸してくれと頼まれた。すなわち人助けだと書くべきかもしれない。─が、さすがに提出する入部届にそれを書くのは忍びない。だから仕方なく「なんとなく」そう書いた。
「……ほんとに大丈夫なんだよね?」
狐につままれたような顔でぽかんと眺める。
部活なんて面倒くさくて入るつもりなんかなかったし、実際何度か断った。だけど、名前だけ貸してくれればいいって言っていたし放課後部活に出なくてもいいみたいだし。
「べつにいいよ」
「分かった。じゃあ顧問には私から渡しておくね」
入部届を受け取ると、それを二つ折りにした。
「──あ、そうだ。先生に何て説明する?」
国崎が羽田に尋ねた。そうしたら「んー」と腕を組んでしばらく悩んだあと、「高槻くんは放課後になるとお腹が痛くなるみたいなのでとか」なんて、ふざけたような理由を本気な顔して言うもんだから、こいつに頼んだら余計厄介なことになる。
「ちょっと待て。おまえ、それ本気で言うつもり?」
「おう。だってそれ以外思いつかないし」
もしも万が一、その理由が通ってしまったとしたら俺はどうやら放課後腹を毎日下すらしい、という特異体質みたいなものが学校に広まりでもすれば恐ろしすぎる。
最悪の場合、栞里がいる大学にまで知られてしまいそうだ。そうなったら放課後、もう会ってもらえなくなる可能性だって出てくる。
「俺が出しに行くから」
「え、トイレに……?」
なんて笑いながら確信犯のフリして言うものだから、「アホかっ」そう言って膝に蹴りを入れると国崎の手からそれを奪い返したのだった。