「自分の好きな場所が無くなっちゃうのってすっごく悲しいことだもん。それが大切な居場所ならなおさらね。だから幹太くんのその勇気のおかげでその子たち救われたと思うよ」

 親切な口調で、頭を撫でるように優しく言った。それはまるで物語を紡ぐような声で。

 不安と切なさが襲いかかり、後悔の渦に飲み込まれそうになる俺を栞里が掬い上げる。
 彼女の言葉全てが身体の隅々まで浸透して、俺の素直になれない心を解きほぐす。

「どうかなぁ……」

 今思い返せば国崎たちも必死だったんだろう。大切な思い出のある写真部を無くさないために。
 大切な居場所は、誰にだってある。それはもちろん俺にだって──…

「ねえ、栞里。今度この町案内してくれないかな」

 俺の言葉に、え、と声をもらしたあとキョトンとした表情を浮かべる。

「この町に来て一度も町を見て回ったことないんだ」

 ──俺は、まだこの町のこと何も知らない。

「それに栞里が好きだと言った景色も見てみたいし」

 ──少しでも、彼女に近づくために。

 母さんがこの町の海を好きだと言った。

 この町に来てよかったと思えるように。
 この町を好きになれるように。

「だめかな」

 一瞬困惑した表情を浮かべ、そうして口元に弧を描いたあと。

「うん、いいよ」

 二度と後悔することのないように、俺は今を生きたい。