「べつに意気込みってわけじゃないけど……」

 身体がかあっと熱くなり恥ずかしくなる。そんな俺にトドメを刺すように「それくらいこの前の幹太くんすごかったの!」と今度はあどけない表情で笑う。

「でもいいね、部活。すっごく楽しそう!」
「俺的には面倒なことに首突っ込んだって感じで後悔してるけどね」

 後悔と不安が、色の違う絵の具みたいに混じり合う。

「全然そんなことないよ! だって、高校生が放課後部活に明け暮れるなんて青春って感じするじゃん! それに、部活してるとなんだか分からないけどモテたりするときってあるでしょ。だからこれから恋に発展なんかしたりして……!」

 まくし立てるように告げたあと、なんて妄想を膨らませて「きゃー、楽しそう!」と足をバタつかせながらはしゃぐ栞里は、子どものようだ。

「……恋なんてありえないし」

 思わず口からポツリと漏れると、「あっ!」それを栞里が拾い上げる。

「そっか。そうだったね! 幹太くんには好きな子いるんだったよね」

 その言葉で前の記憶が急速に手繰り寄せられる。まるでカセットテープを巻き戻すように思考を遡った。

「そのことなんだけど、俺の好きな子ってのは…」
「ああっうん、心配しないで! 私、こう見えて口は固い方だから大丈夫だよ。どんと安心して相談していいよ!」
「いや、だから、」
「遠慮しなくていいよ。女の子の気持ちなら私分かるからアドバイスできると思う!」

 勉強の中でも一番得意なのは国語だった。よく教科の先生に「高槻は文章の書き方もうまいし理解も早いな」なんて褒めてくれたことがある。俺は昔から褒められたら伸びるタイプだった。だから、それを機に国語は得意科目になったのだけれど……

 確実に誤解している。それを解こうとすればするほど、さらに糸は絡んで解けなくなる。
 悪循環の連鎖に俺は歯が立たない。

「だけどさぁ、幹太くんえらいね!」

 俺が誤解を解こうと悪戦苦闘していると、話はどんどん進んでゆく。彼女の言葉に俺は、え、と呆気に取られる。

「困ってる人を見捨てられないから、それで人助けしてあげたんだね」
「……そんな大それたことなんてしてない」

 あのときの俺は、他の生徒の視線が気になっただけであってそれ以上でもそれ以下でもない。

「ううん、きっとその子たちにとって幹太くんはヒーローみたいだと思うよ」

 言葉が次々と出てきて、それを俺は吸収するので精一杯だった。