いつもひまわりのように笑っていた栞里が、今はとても悲しそうに眉尻を下げていた。

「私、幹太くんのこと支えてあげられないかな」

 俺は言葉が出なかった。緊張のあまり魂を奪われたみたいにぼんやりとする。

「な、に…言ってるの」

 ようやく口から出た言葉は、たったそれだけだった。弱々しくて今にも倒れてしまいそうな芯のない声。

「女の子に支えてもらう男なんて情けないよ」

 栞里の手を軽く払い除けたあと顔を逸らす。

「女とか男とか関係ないよ」

 ギシ、とベンチが軋んだあと、俺の視界に足が映る。純白のワンピースの裾がふわりふわりと揺れる。彼女がベンチから立ち上がり俺の前へやって来た。

「幹太くんは自分のことを情けないって言うけど、ほんとはずっと今まで一人で頑張ってきたんじゃないの?」

 その言葉につられるように顔をあげると、泣きそうなほど眉をひそめるけれど、悲しみに耐える表情で俺を見つめる栞里。

「べつに、頑張ってなんか…」

 誰かにそんなことを言われたのは初めてだった。思わず目を逸らす。彼女の一言は、俺の心を揺さぶった。軽い動悸が起こるくらいには。
 鼻の奥がつーんと痛みだし、のどの奥が苦しくなってくる。

「幹太くんがどんなことで悩んでいるのか分からないけど、自分のこと許してあげてもいいんじゃないの?」
「…悩んでなんか、ないよ」
「じゃあそれ、私の目を見て言ってみてよ」

 さすがにそれは無理だと思った俺はどうすることもできなかった。
 しばしの静寂が流れたあと、「ねえ、幹太くん」と俺を呼んだ。

「ちょっと来てほしいところがあるんだけど」

 絹糸のような柔らかくて優しい声が耳に入り込む。

 今は一人がよかった。なぜならば、感情が込み上げていつ泣いてしまうか分からなかったからだ。
 だけど、誘いを無下に断るのも忍びない。

「……うん、わかった」

 歯の隙間から言葉を絞り出すように、小さく小さく頷いた。