写真の中の俺はあんなにも楽しそうに笑っていた。でも、じわじわと母さんの身体を蝕んでいたはずだ。俺は、小さな異変にも気付いてあげることができなかった。今までは楽しい思い出が、写真を見るとたまらなく苦しくなった。
どうして俺は気づいてあげられなかったんだろうって、情けないし悔しいし。──そう思ったら写真なんか見たくなくなった。
「写真って何年経っても色褪せることないと思うの。そのときの楽しかったことや嬉しかったこととか、全部。思い出として残る。それが写真なんだなぁって」
色褪せることはない。それはたしかにそうかもしれない。
だけど、今の俺は自分の過去と向き合うのが怖い。見るのが怖い。自分が笑って映る写真を見ると思うんだ。自分が楽しんでいたとき母さんは苦しいのを我慢していたのかもしれないと。
「幹太くんは写真撮るの嫌い?」
「そもそも俺、撮ったことないから……」
「そうなの? でも友達と一緒に写真撮ったことはあるんじゃない?」
「あー…まぁあるにはあるけど、周りの雰囲気に合わせたっていうか自分では撮らないから…」
前の学校では友達が気になる女子と一緒に写真撮りたいから、って言ってなかば強引に俺もその輪の中に入れられた。そのときは笑ったつもりでも現像した写真を見てみると、俺の顔は引き攣っているような笑顔だった。
心の底から笑うことが苦手になった俺は、転校して来た今でも人とつるむことはなく学校で笑うことだってない。
「友達と仲良くなかったの?」
「仲はふつーだったと思うけどどうかなぁ…」
一緒にいる友達はいたけれど適度な距離を保って接していた。それでも無理をして笑わないといけないときも幾度となくあった。
「だったら一度、写真撮ってみない? その楽しさに気づくと思うよ!」
突飛のないことを告げられて、急ブレーキをかけたような動揺が走る。
「いやあ、それは…」
栞里の誘いであってもあまり乗り気はしなかった。
俺だけが楽しくて幸せだった、そんな人生なんか跡形もなく消えてしまえばいいのに。
「幹太くん」
栞里の水のように落ち着いた声が聞こえたあと、頬に柔らかくて温かい何かが触れる。あまりにも突然のことで心臓が止まりそうになる。
彼女の手のひらが俺の頬にピタリと寄り添っていたからだ。
「なんだか何かに怯えてるみたい」
──と俺の目を見据えて言った。