「知ってるの?」
「そりゃあ知ってるよ。私もそこの学校だったんだもん」

 ここは田舎町。高校なんかいくつもあるわけじゃない。電車で一駅すぎれば高校はあるけれど、家から近いところを優先するならばこの町に住んでいる人は大抵この学校に行く、とクラスメイトが勝手に教えてくれた。

「あ、でも、ちゃんとした理由があれば所属を免除されたりはすると思うけどね」

 実際に、担任の先生は俺のことを理解しているから無理にとは進めなかった。むしろ校長先生に掛け合ってくれるとまで言っていた。

「もしそういう理由があるなら先生に相談してみたらいいと思うよ」

 代わりに栞里は、そんな言葉を残しただけでそれ以上は踏み込んでこなかった。
 見た目は同い年に見えるのに、中身はちゃんと大人だ。それでいて踏み込んでいい部分とダメな部分を理解している。嫌なことを聞かれてカッとなって怒った俺とは全然違う。心に余裕があって、それでいて凛としていた。

「栞里は部活入ってたの?」
「……え?」

 いきなり俺が尋ねるものだから困惑した。まるで狐につままれたような顔でぽかんと俺を見つめる。

「私は、写真部だったよ」

 しばらくして、口元に弧を描いた。

 まさか栞里が写真部に所属していたなんて。それを知っていたら俺……ん? 知っていたら、何だ? まさか部活に入るつもりなのか。今まで頑なに拒んでいたくせに。

「写真部ってね、すっごく楽しいんだよ!」

 声を弾ませていつもより楽しげで、表情は水に濡れたように生き生きと輝いていた。

 ──ああそういえば、俺にもこんなときあったよなぁ。好きな野球を毎日のようにやっていた時代が。休みの日は練習試合が埋まっていて、ユニフォームは泥だらけで。チームメイトと切磋琢磨しながらプレーに磨きをかけた。

「そのときの一瞬を切り取るっていうかね、目で見たときの感動とか体感をあとになって見返せるっていうか。写真を見ると懐かしむことができたり楽しかったり、そのときの感動が蘇ってくるの」

 写真は、小さい頃のものなら今までも見たことがあった。幼稚園の遠足とか運動会や何かの発表会とか、俺の成長を追いかけるようにアルバムにはたくさんの写真が貼ってあった。

 だけど、いつしかそれを見なくなる。
 きっかけは、もちろん母さんの病気が発覚したときだった。