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国崎たちは毎日のように写真部に俺を勧誘する。そのたびに俺は逃げるを繰り返し、休み時間は潰れるし昼休みなんてもってのほか。たまたま偶然、非常階段を登ると屋上の扉が開いていた。それを知った俺は、昼休みはそこで過ごすようになる。
だけど、今日はそこへ来客が訪れた。
「あっ、いた!」
国崎と羽田だった。またか、そう思った俺はため息をついて頭を抱えた。
「お願い!」
ぱちんっと両手を合わせる。このやりとりをしたのはこれで何度目だろう。
「無理だって」
「そこをなんとか!」
「無理」
何度断っても国崎は諦めなかった。相当諦めが悪いらしい。
「なぁ頼むよ、高槻!」
そうしてこれも見慣れた光景だ。国崎の次の出番は、羽田だった。彼もまた国崎と同じように手を合わせた。教室でも当然ながら繰り返される光景に、クラスメイトもこの状況に慣れて『ああまたか』と笑う。他の部活の勧誘はなくなったというのに、どういうわけか写真部だけがしつこいのだ。
「何度言われても無理」
毎日毎日同じことを聞かされる身にもなってみろよ。最近では夢にまで現れるようになった。このまま続けばノイローゼになりそうだ。
「なんで無理なの? 理由は? 何かあるんでしょ?」
言葉をまくし立てられ、やり場のない苛立ちで、頭の芯がチリチリと音を立てる。
「言いたくない」
母さんが病気であまり長くはないかもしれない、と誰が望んで言うんだ。気軽に聞いたりするな。土足で踏み込むな。猫のように背中の毛を逆立てて、戦闘モードに入る。
「理由言ってくれないと私、分からないんだもん」
だもん、って。それはそっちの都合だろ。理由って何だよ。なんで俺が言わなきゃならないんだよ。これだけ無理だと言ってて諦めが悪いのは自分たちだろ。諦めるための理由を俺に求めるな。
「あっそ」
あー、ほんとにイラつく。ムカつく。気を抜けばまた舌打ちが出てしまいそうだ。腑が煮え繰り返りそうなほどに怒りを抱えた。
「あっそじゃなくてさぁ、ちゃんと教えてくれない? そしたら私たちも納得すると思うし」
いつもそうだ。この世界は理不尽で、不公平で。俺の世界だけが脆くて崩れやすい。俺ばかりがいつも何かを手放している。
「なんで」
「え?」
「なんで俺が言わなきゃいけないわけ」
やがて血は逆流して、頭が燃え出すように熱してくる。