べつにそこまで深い話をするつもりはなかったのに、いつのまにやらこんなところまでやってくる。

「でもまぁそうかも! 幹太くんの言う通りだ! 私、夢みるのは好きだよ。だって夢をみることはタダでしょ?」

 ひとしきり時間をかけて悩んだあと、そう言ってニィと歯を見せて笑った。

「そりゃあ、そうだけど」

 俺とは対照的な意見に一瞬目が眩みそうになり、少しだけ顔を逸らすと「みんなね、夢をみたいの──」と表情を緩めながら、前置きをして。

「夢だけは裏切らないし、夢をみているときだけはキラキラした世界が広がっているような気がするの。夢を見るその一瞬だけでも幸せでいたい、ってね」

 口元に弧を描いた彼女は、「幹太くんもそう思わない?」と尋ねてくる。

「さぁどうかなー……」

 俺がそれにはっきりとした言葉を答えることはなかった。というか、答えられなかった。あまりにも自分の世界とは異なってみえる答えだったから。

 だけど、すごくそれが羨ましくも思えた。

 自分とは違う思い、考え。それらはすべて前向きで明るくて、彼女といるとその感情にほだされてしまいそうな自分もいる。

 自分が幸せになるのはいけない。そう思っているのに、この時間がずっと続けばいいのに──そう思ってしまう自分がいる。

「ねえ幹太くん。人ってね、すごく欲張りな生き物なんだよ」

 とても穏やかな顔を浮かべているのに、口から紡がれた言葉は少し強烈で。俺の頭の中には困惑と疑問が竜巻のように渦巻いていた。

「どうしたの急に」

 なんとかそれを拾い上げて言葉を返すのが精一杯だった。

「なんだろう。すごくね、今言いたくなっちゃったの」
「夢みすぎたせいじゃない」

 俺がからかうと「もう…っ!」彼女は頬を少しだけ染めて恥ずかしそうに笑うと、拳を振り上げる。慌てて俺は「冗談だよ」と両手を前に突き出した。

 そんな何気ないやりとりが微笑ましく感じて、心が何かで満たされるようだ。

「それで続きは?」
「……」
「次は絶対からかわないから」
「……」
「ほんとだよ!」

 頬を膨らませたまま俺をじーっと睨むから「神に誓って」と両手を立てて降伏する。もちろん神なんて信じていなかったが。

「えーっと……どこまで話したっけ? 幹太くんのせいで忘れちゃったぁ」

 気を取り直したように話し始めるけれど、きょとんと首を傾げる。呆れて笑いながら「欲張りって話」と助け舟を出すと「ああっそれだそれ!」とポンっと手を叩いた。