〝あの出会いが私にとって初恋で……幹太くんが私の初恋の男の子なの〟

 ……俺たちは、両想いだった。

 だけど、願いは叶うことはなかった。

「ねぇ、栞里。前に俺に言ったことがあったよね……私たちもっと早くに出会っていたら何か変わったかな。今とは違う人生送ることができたかなぁって……俺も思うよ。もっと早くにこの町に来ていたら、栞里ともっと早くに会っていたら俺の人生は変わっていたのかなって……」

 もしかしたらこんなふうに苦しむことはなかったかもしれない。今とは違う人生を送っていたかもしれない。
 もちろんそんなこと神様以外が知るよしはないけれど、それでもそう思わずにはいられなかった。

「もっと早くに出会って自分の気持ちに素直になれたら栞里と付き合うことができたのかな」

 ──不確かな未来に、夢馳せる。

 〝もしも〟の話に理想を描く。

「そしたら今、幸せになれてたのかな……」

 冷たい風が身体の熱を奪ってゆく。

 頭が冷静になると、心も落ち着いた。

「……なんて。俺がここで立ち止まってたら栞里、安心して眠れないよな……ごめん、俺変なこと言っちゃった」

 苦い笑みを浮かべたあと、十年前の錆びた瓶と真新しい瓶を隣同士に置いた。
 まるでそれが、俺と栞里のようだ。

 ここには、俺以外に誰もいない。
 俺と栞里の二人だけだ。

 火をつけた線香から放たれる煙は、ゆらゆらと上へ上へと昇ってゆく。

 手を合わせて、目を閉じた。

 ──ふわっ

 不意に、風が吹いて俺の背中を撫でるように消える。

「……栞里?」

 まるで彼女がすぐそばにいるような感覚を感じて、あたりを見渡すが誰もいない。いたとしても、おそらく俺にはもう見えないだろう。
 少し期待してしまう自分がおかしくて口元を緩めたあと、墓石を見つめた。

「俺さ、栞里に会えてよかったと思ってる」

 ぽつりと言葉を落とす。
 それに返事をしてくれる人はいない。

 栞里がここにいたら『どうしたの突然』そう言って笑っているかもしれない。

「初めて人を好きになった。それが栞里で、ほんとによかったと思ってる……それに今だって栞里のことが……」

 ──好きで好きで、たまらない。会いたくてしかたない。

 だけど、会えないもどかしさ。

「もし、ここに栞里が現れたら俺に何て言う? 早く私のことは忘れてって言うかな。それとも一生一人は寂しいよって同情するかな……」

 正確な答えは、栞里にしか分からない。

 それでも──