「お礼を言うのは俺の方」
今まで他人のことなんて興味がなくて、必要以上に近づかなくて自分のテリトリーに踏み込ませないようにしていた。距離をとっていた。
「……ありがとう」
だけど、国崎も亮介もすごくいいやつらで、俺は気がつけば心を許すようになっていた。
自然と広角が緩み、笑うようになった。
「──あっ、そうだ。高槻くんに渡すものあったんだった」
思い出したようにハッとすると、スカートのポケットからある物を取り出して俺に手向ける。が、握りしめたように拳にしているから中身を確認することはできなくて、困惑したまま手を下へとかざす。
──チャリッ
国崎が拳を広げると、音を立てて俺の手のひらへと落ちた。
そこにあったのは幸せになれる砂だった。
「これ、十年前に高槻くんからもらったもの。でも、ほんとはお姉ちゃんにあげたつもりだったんでしょ」
「あー…うん、まぁ…」
国崎の左手には、さっき亮介から受け取った幸せになれる砂があり、俺の手にもある。
「だったら今度はちゃんとお姉ちゃんに渡してあげてよ」
「……え?」
「お姉ちゃん、ずっと待ってるよ」
十年前のものだから当然チェーンも錆びれていて、綺麗とは程遠かった。
あの日、俺は同じ子にあげたと思っていた。
だけど、それは別人で。
「あのさ、国崎」
それをぎゅっと握りしめた。
「──栞里が眠ってる場所教えてほしい」
俺が告げると、一瞬だけ顔が強張った。が、すぐに表情は緩む。
「お姉ちゃんが眠ってる場所は……」
俺はこれから彼女に会いに行く。