「──ねえ、高槻くん!」

 放課後、帰り支度をしていた俺を呼び止めた。「お姉ちゃんのことなんだけど」そう前置きをされるから、どきっと小さく緊張して少し身構えた。

「私をお姉ちゃんのところに導いてくれてありがとう」
「…いや、べつにお礼言われるほどでもないっていうか…」
「高槻くんがいなかったら私、今もずっと後悔したままこれからを過ごしていたと思う。ずっと自分のこと責めてたと思う。罪悪感でいっぱいでら自分の幸せなんかいらないって思ってた」

 その言葉はまるで少し前の俺のようだと思うと、胸の奥がチリチリと焼けそうだった。

「だけど、お姉ちゃんは私のこと許してくれた。こんなひどい妹のこと、怒らないで最後は笑ってくれた」

 あの日、栞里の最後はとてもすごく優しい表情を浮かべて泣きながら笑っていた。

 さよならじゃないと。また会う日まで、ほんの少しのお別れだと言った。

「高槻くんのおかげでお姉ちゃんと話すことができた。高槻くんがあのとき私のことを導いてくれたから今がある。だから、ほんとにありがとう」

 かしこまって頭を下げた。

「……そんな大袈裟だろ」

 俺は何もしていない。大した力さえ持っていない。

「ううん、ほんとに。すごく感謝してる。感謝してもしきれないくらいに……」

 俺は、誰かに感謝されるために行動したわけじゃない。あのときは、無我夢中だった。二人をこのまま離れ離れにさせたままでいいのかと自問自答した。

 その結果、ダメだと思っただけだ。

「あの日ちゃんと話すことができて後悔が少しだけなくなった。嫌いだった自分のことを少しだけ許してあげようって思えるようになった」

 そう言って、晴れた日の太陽のような表情を浮かべた国崎を見て「そっか」俺まで口元が緩む。

「高槻くん。お姉ちゃんを見つけてくれてありがとう」
「……それは俺のセリフだよ」
「え?」
「栞里に出会えたことで俺の世界も変わったから」

 出会わないまま今も一人で過ごしていたら、何を大切にするべきなのか見失ったまま無駄な人生を歩んでいたかもしれない。途方に暮れる毎日だったかもしれない。

 だけどそれを、どうするべきなのか。どうあるべきなのか、導いてくれたのは栞里だ。