◇
栞里が俺たちの前に姿を現すことはなくなった。
それから一週間が過ぎ、日常は変わりつつある。
母さんは、眠ることが多くなった。俺が見舞いに行っても寝てることが多くて、声をかけずに帰ることもあった。
母さんが栞里のことを見えたのは、死期が近かったからだと栞里は言った。
もしかしたらそれは、そう遠くない日まで迫っているのかもしれない。
残された時間があとわずかだとしても、時間を止めることはできない。時を戻すことはできない。それならば、せめて最後のときまで穏やかな日々を過ごしてほしいと思った。
悲しくて苦しくて、それでも世界は回っていた。嫌でも日は昇ってきて俺たちの世界を明るく照らすのだ。
そんな、ある日の休み時間。
「なぁ、茜音。これもらって」
亮介がポケットから取り出したのは、幸せになれる砂だった。
国崎はきょとんとした表情を浮かべ、そして次第に理解したのか「─え」驚いた表情で亮介を見上げた。
「俺、ずっと茜音のことそばで見てきた。元気な茜音も、姉ちゃんを亡くして悲しむ茜音も、自分の後悔に苦しむ茜音も……でも、これからは俺がそばで茜音のこと支えてやりたいって思ってる」
聞いている俺の方が恥ずかしくなってしまいそうな、歯の浮きそうな言葉を並べる。
「えっと、あの……」
言葉に詰まり、口を結んだ。
「今はまだ返事はいい」
そう言って、無理やりに幸せになれる砂を受け取らせる。
「とりあえず俺の気持ちだけ知っててもらえればいいから」
「……亮介の気持ち……それって私のこと好きってこと?」
国崎に告げられた言葉によって「なっ…!」瞬間、顔をりんごのように真っ赤に染めた亮介は、金魚のように口をパクパクさせる。
「と、とにかくそういうことだから……!!」
慌てたように早口で告げると、逃げて行くわ
亮介の後ろ姿を見つめたあと、幸せになれる砂に目を落とした国崎はクスッと笑った。
変わりそうで変わらない関係がもどかしく感じられるが、ゆっくりと変化してゆくのだろう。
栞里が俺たちの前に姿を現すことはなくなった。
それから一週間が過ぎ、日常は変わりつつある。
母さんは、眠ることが多くなった。俺が見舞いに行っても寝てることが多くて、声をかけずに帰ることもあった。
母さんが栞里のことを見えたのは、死期が近かったからだと栞里は言った。
もしかしたらそれは、そう遠くない日まで迫っているのかもしれない。
残された時間があとわずかだとしても、時間を止めることはできない。時を戻すことはできない。それならば、せめて最後のときまで穏やかな日々を過ごしてほしいと思った。
悲しくて苦しくて、それでも世界は回っていた。嫌でも日は昇ってきて俺たちの世界を明るく照らすのだ。
そんな、ある日の休み時間。
「なぁ、茜音。これもらって」
亮介がポケットから取り出したのは、幸せになれる砂だった。
国崎はきょとんとした表情を浮かべ、そして次第に理解したのか「─え」驚いた表情で亮介を見上げた。
「俺、ずっと茜音のことそばで見てきた。元気な茜音も、姉ちゃんを亡くして悲しむ茜音も、自分の後悔に苦しむ茜音も……でも、これからは俺がそばで茜音のこと支えてやりたいって思ってる」
聞いている俺の方が恥ずかしくなってしまいそうな、歯の浮きそうな言葉を並べる。
「えっと、あの……」
言葉に詰まり、口を結んだ。
「今はまだ返事はいい」
そう言って、無理やりに幸せになれる砂を受け取らせる。
「とりあえず俺の気持ちだけ知っててもらえればいいから」
「……亮介の気持ち……それって私のこと好きってこと?」
国崎に告げられた言葉によって「なっ…!」瞬間、顔をりんごのように真っ赤に染めた亮介は、金魚のように口をパクパクさせる。
「と、とにかくそういうことだから……!!」
慌てたように早口で告げると、逃げて行くわ
亮介の後ろ姿を見つめたあと、幸せになれる砂に目を落とした国崎はクスッと笑った。
変わりそうで変わらない関係がもどかしく感じられるが、ゆっくりと変化してゆくのだろう。